2026/09/16
「最初は断るつもりだった」 焼津の町の魚屋さん 東京の人気店に“オーダーメイド”の魚
■「サスエ前田魚店」の前田尚毅さん 「DEAN & DELUCA 有楽町」に限定メニュー
静岡県焼津市にある「町の魚屋さん」が、東京の人気店のためだけに魚を仕立てた。9月17日にフルリニューアルする東京・有楽町の「DEAN & DELUCA 有楽町」で、焼津市の老舗「サスエ前田魚店」が仕立てた魚を使った限定メニューが登場する。駿河湾産の花鯛とミナミマグロのテールを使った2品で、10月中旬までの販売を予定している。
”日本一の目利き”と評される前田尚毅さん ミシュラン店からも絶大な信頼
サスエ前田魚店は焼津市で60年以上続く魚店。5代目の前田尚毅さんは、地元客に刺身などを販売する一方、国内外の料理人にも魚を届けてきた。魚の状態や料理に合わせて手を入れる「仕立て」の技術で知られ、2021年には「ゴ・エ・ミヨ」のテロワール賞を受賞している。
今回の取り組みでは、前田さん自身も「DEAN & DELUCA 有楽町」を訪れ、厨房の調理環境や、料理がショーケースに並んでから客の手元に届くまでの流れを確認した。
レストランであれば、料理人が仕上げた一皿は基本的にその場で客が口にする。一方、店頭に並ぶ惣菜は買ってすぐに食べるとは限らない。自宅へ持ち帰り、数時間後に食卓に並ぶこともある。いつ食べられるのか分からない魚を、どうすればおいしい状態で届けられるのか。前田さんにとっても、これまでとは異なる仕立てが求められた。

サスエ前田魚店5代目の前田尚毅さん
■最初は断るつもりが… シェフの試作品を食べて決断
前田さんは自身を「町の魚屋さん」と表現する。高級魚でなくても魚屋が手を入れることでおいしくできるという考えを持ち、今回は食べるまでの時間が読めない惣菜だからこそ、その先まで見据えた仕立てに挑戦した。
ただ、最初から今回の話に前向きだったわけではない。前田さんは、オファーを受けた時点では断ろうと思っていたことを明かしている。考えが変わったのは、「DEAN & DELUCA」のシェフがつくった試作品を実際に食べてからだった。試行錯誤を重ねたことが伝わる味に、「これなら魚のバトンを渡せる」と感じたという。そこで有楽町店のために選んだのが、駿河湾産の花鯛とミナミマグロのテールだった。
花鯛を使うのは「花鯛とアーティチョークのカルパッチョ トリュフソース」。価格は100グラム1836円で、花鯛本来の弾力を楽しめるよう、あえて厚切りにする。皮目まで味わえるように仕立て、アーティチョークとトリュフソースを合わせる。
前田さんは試作品を踏まえ、身の厚みや皮の食感、味の余韻まで考えながら魚を微調整したという。「DEAN & DELUCA」のためだけに仕立てた、いわばオーダーメイドの魚と言える。

花鯛とアーティチョークのカルパッチョ トリュフソース

まぐろテールのオッソブーコ風 トマト煮込み
■魚のおいしさをつなぐ 「食のバトンリレー」
もう1品は「まぐろテールのオッソブーコ風トマト煮込み」で、1個1944円。ミラノの伝統料理「オッソブーコ」をミナミマグロのテールでアレンジし、香ばしく焼いたテールをトマトソースで煮込む。マグロの酒盗も隠し味に使われている。
前田さんが大切にしてきたのが、漁師、魚屋、料理人で魚のおいしさをつなぐ考え方だ。漁師、魚屋、料理人の仕事をそれぞれ「30点」とし、残る10点は食べる人が適切なタイミングで味わうことで100点になる。前田さんはこれを「食のバトンリレー」と表現している。
その仕事は外部からも評価されてきた。昨年は「第16回辻静雄食文化賞」の専門技術者賞を受賞。漁業者と連携して高品質な魚を仕入れ、最高の状態で料理人へ届ける仕組みを一から構築したことなどが評価された。
「MEET LOCAL~サスエ前田魚店~」は9月17日から10月中旬まで、「DEAN & DELUCA 有楽町」限定で展開される。国内外の料理人から魚を求められるようになっても、原点は焼津の「町の魚屋さん」。そこで磨いてきた仕立ての技術が、今度は東京の食卓へと渡っていく。
(SHIZUOKA Life編集部)









