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2025/11/26

“消えた”ちり紙に新機能 “因縁企業”が再ブレイクへ仕掛け 介護・ペットで需要拡大

■富士市の新橋製紙 ちり紙の製造は運命!?

まだ、勝負は決していないのか?トイレットペーパーが圧倒的優位の時代に、ちり紙が進化を遂げて再び挑もうとしている。静岡県富士市に本社を置く製紙メーカー「新橋製紙」が、新たな機能を加えたちり紙を販売した。かつて、ちり紙の時代を終わらせるきっかけをつくった新橋製紙は、なぜ今、ちり紙の製造を始めたのか。それは、“運命”だったのかもしれない。

 

開設したばかりの新橋製紙ECサイト 新商品「めりふわ」も販売

 

紙のまち・富士市にある新橋製紙は1949年、日本で初めてロール式トイレットペーパーを開発した。在日米軍の基地が水洗トイレだったためトイレットペーパーが必要になり、要望を受けたものだった。これを機に、元々材木店だった新橋製紙は製紙メーカーへと転換した。

 

当時、日本のトイレは汲み取り式だった。汲み取り式は水で流さないため、水に溶けないちり紙が使われていた。この時点では、トイレットペーパーの需要はなかった。「拭く」という面に限れば、厚みのあるちり紙の方がトイレットペーパーよりも明らかに分があった。

 

しかし、形勢は変わっていく。水洗トイレが一般家庭にも普及し始めたのだ。汲み取り式はバキュームカーが来るまでの期間、排泄物の臭いがトイレにこもる。一方、水洗トイレは使用ごとに水を流すため、臭いや汚れが残りにくい。

 

1960年代に高度成長期を迎えると、水洗トイレは一気に広がった。同時に、トイレットペーパーの立場がちり紙と逆転した。遅かれ早かれ、水洗トイレが日本で当たり前の時代は来ただろう。ただ、日本初のトイレットペーパーを製造した新橋製紙は、ちり紙の時代に終わりを告げるきっかけをつくったとも言える。新橋製紙の山﨑清貴社長は「弊社がトイレットペーパーの製造に挑んでいなければ、ちり紙の時代は、もう少し長く続いていたかもしれません」と語る。

■消臭効果のあるちり紙 「めりふわ」の販売開始

その新橋製紙が10月、社として初めてちり紙を販売した。商品名は「めりふわ~メリーのやさしさ~」。羊をモチーフにしたオリジナルキャラクター「メリー」がデザインされている。ごわっと硬いイメージのあるちり紙を、ふわっと柔らかい触り心地に仕上げた。そして、ちり紙では“革新的”な消臭効果にも成功した。

 

消臭効果付きのちり紙を製造できたのは、提携する八幡浜紙業の力が大きい。富士市と同様、紙のまちをうたう愛媛県にある八幡浜紙業は1947年の創業時から、ちり紙に特化して事業を展開している。「ちり紙のプロ」とも言えるパートナーが知識と技術を結集し、ちり紙に適した消臭効果のある薬液を発見。今回の商品化に至った。

 

実は、ちり紙は近年、介護やペット業界で需要が伸びている。かつてのちり紙と違い、今は水に溶けるのでトイレにも流せる。トイレットペーパーと違って、片手でまとまった量を取れるメリットもある。そのため、片手がふさがった状態で排泄物や嘔吐物を処理する介護やペットの現場で重宝されている。使用したら、そのままトイレに流せることから、利便性に加えて衛生面でも安心だ。

 

ちり紙を愛用する介護やペットの現場からは、「臭いを消す効果のあるちり紙がほしい」との声が上がっていたという。その悩み解消が、「めりふわ」製造へとつながった。

段ボールにもメリーがデザイン

■利用者は臭い軽減の効果実感 持ち運びも便利

実際に「めりふわ」を使った人からは、「子どもやペットのおしっこやうんちの臭いを抑えられる」、「生ごみを包んでごみ箱に捨てたら、臭いが軽減された」といった声が寄せられているという。山﨑社長は用途の広さを説く。

 

「自宅や施設に置いておくだけではなく、外出する際も便利です。犬の散歩に行く時は、必要な分を折りたたんでポケットや散歩用バッグに入れて持ち運べます。犬の排泄後は、めりふわでお尻を拭いてから便を包んで袋に入れ、家に帰ったらトイレに流せます。消臭効果があるので、散歩中も臭いが気になりません」

 

「めりふわ」は新橋製紙にとって、初めて製造したちり紙となる。しかし、会社で登録している「メリー」の商標には、トイレットペーパーだけではなく、ちり紙も含まれている。この商標が登録されたのは1971年。当時を知る人が社内に残っていないため詳細は不明だが、「メリー」の名前を付けてちり紙を販売する計画があったのは間違いない。山﨑社長は「ちり紙を製造・販売するのは新橋製紙の運命だったと感じています」と話す。

 

ちり紙はトイレで使う点においては、トイレットペーパーを逆転できないかもしれない。だが、ちり紙の方が優位なシーンもある。ちり紙を知らない若い世代は今までにない使い方を見つける予感もある。新たな武器「消臭効果」を得た「めりふわ」は、ちり紙とトイレットペーパーの立場に変化を生むかもしれない。

 

(間 淳/Jun Aida

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