生活に新しい一色
一歩踏み出す生き方
静岡のニュース・情報サイト

検索

情報募集

menu

2022/08/07

少年野球のイメージ覆す指導方針 理学療法士が立ち上げた育成型チームに希望者殺到

グッドフェローズを立ち上げた甲賀さん

■掛川市の「グッドフェローズ」 4月に発足して部員は約40

深刻な競技人口の減少が叫ばれている中、少年野球のイメージを覆す方針で部員を増やしているチームがある。静岡県掛川市にある小学生の軟式野球「グッドフェローズ」。理学療法士が創設した異色のチームで、連盟に所属せず、育成に重点を置く。練習は午前のみの半日で、父母会はなし。今年4月に発足して、すでに部員は40人近くまで増えている。

 

派手な宣伝をしなくても、口コミであっという間に部員が増えた。掛川市で活動する「グッドフェローズ」には、小学1年生から6年生まで40人近くが所属する。チームを発足して、わずか4カ月。想像以上に子どもたちが集まった。チームを立ち上げた甲賀英敏さんは驚きを口にする。

 

「野球をやりたい子どもたちが、こんなにたくさんいるとは思いませんでした。指導者の数に対して、子どもたちに十分に目が行き届かない安全面の問題から、今は小学校低学年の募集をストップしています。野球には関心があっても、希望する条件のチームがなく、野球をしていなかった子どもたちが多いという印象を受けました」

 

甲賀さんは理学療法士で、静岡県高校野球連盟のメディカルサポート代表を務めている。行き過ぎた勝利至上主義や指導者の知識不足などが原因で、肩や肘を故障する子どもたちの低年齢化、深刻化を目の当たりにしてきた。チームを立ち上げたきっかけには、現状への強い危機感がある。

 

「小学生の頃から特定の選手に出場機会が偏ってしまい、投げ過ぎで肩や肘を壊す選手がいます。誤った指導や考え方は、子どもたちの将来を潰してしまいます」

運動能力を伸ばす育成に重点を置いた練習メニュー

■育成重視する三位一体の指導 練習時間を正午までの3時間にする理由は?

甲賀さんはチーム方針に「育成」を掲げている。軸にするのは、「障害予防(メディカル)」、「フィジカル」、「テクニック」による三位一体の指導。野球の技術指導以上に運動能力を伸ばすトレーニングを重視し、中学、高校で成長するための基礎をつくる。

 

野球経験者の指導者に加えて、練習メニューの作成やトレーニングの指導は専門のトレーナーが担当している。試合で勝つことを目的にしていないため、軟式野球連盟にも所属していない。甲賀さんは「現在の学童野球の試合数は、小学生の体には負担が大きすぎます。この時期は基礎体力や運動能力を高めることが大切だと考えています」と説明する。

 

常識を覆す方針は、他にもある。少年野球と言えば、土日祝日に朝早くから夕方まで丸一日練習するのが一般的だが、グッドフェローズの練習時間は午前9時から正午までの3時間。子どもたちの集中力が続かなければ、怪我をするリスクは高まり、野球が嫌になる可能性がある。また、練習後に昼ご飯を食べてから昼寝をしてもらうことで、成長ホルモンが分泌されて背が伸びやすくなる狙いもある。

 

限られた練習時間では、怪我を予防しながら運動能力を高めるために、肩の可動域を広げるトレーニングや、無駄なく力を出す走り方などに取り組む。野球の技術的な練習では、芯に当たらないと飛距離が出ない竹のバットを使い、正しいスイングとミート力を磨く。

 

■「甲子園やプロを目指す子どもだけではない」チーム選びの選択肢に

短い練習時間は、保護者の負担を軽減する効果もある。グッドフェローズには、少年野球の“悪習”とも言われているお茶当番はない。父母会自体がないので、保護者は子どもをグラウンドに送り届ければ、練習を見学する必要がない。甲賀さんは「練習が長い、保護者の負担が大きい、怒声罵声が飛ぶといったマイナスイメージから少年野球を敬遠する保護者は多いと思います」と話す。そして、こう続ける。

 

「全ての子どもが甲子園やプロを目指すわけではありません。まずは野球を体験して、楽しさを知ってもらうことが大切だと思います。小学校中学年や高学年でも野球を始められる環境、方針が違うチームを子どもも保護者も選択できる環境が必要です」

 

子どもの数が減っている以上、野球人口が減少するのは自然と言える。ただ、中には部員が増えているチームがあるのも事実。少年野球の常識を覆す「グッドフェローズ」には、野球界が目指すべきヒントがある。

 

(間 淳/Jun Aida

関連記事