2025/05/10
繁忙期は5時間待ちの店「さわやか」 県外出店なら大成功確実でも “静岡限定”を貫く2つのワケ
■静岡県内限定で34店舗展開 「炭焼きレストランさわやか」
静岡県外への出店も熱望されている。だが、その計画は今のところないという。静岡県を代表する飲食チェーン「炭焼きレストランさわやか」には県内外からファンが訪れ、週末になると数時間待ちの店舗も珍しくない。県外に店舗を構えれば収益アップは確実と指摘されても、静岡県に限定する理由がある。
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飲食店の枠を超えて、観光地のような存在にまでなっている。静岡県内で34店舗を運営する「さわやか」は長年、県民に愛されてきた。近年は「さわやか」を目当てに県外から足を運ぶファンも多く、ゴールデンウィークやお盆などの繁忙期には5時間を超える待ち時間が発生する店舗もある。
今や全国的な知名度を誇る飲食チェーンに成長したさわやかだが、1977年の創業以来、一度も県外に店舗を構えたことがない。首都圏など人口が多いエリアに出店すれば繫盛するのは確実とみられるが、「静岡県内限定」を貫いている。広報担当者は、こう話す。
「静岡県外からも多くのお客さまに来ていただき、うれしく思います。県外への出店を期待する声を多数いただいていますが、現在 その予定はありません。静岡県に店舗が限られていることもさわやかの特徴となり、県民の皆さんに応援いただいている要因の一つでもあると考えています」

ハンバーグを製造しているさわやかの自社工場
■自社工場で製造 冷凍せずにハンバーグを店舗へ配送
さわやかが店舗を静岡県内に限定する理由は主に2つある。1つ目は「味や品質の確保」だ。さわやかは袋井市にある自社工場でハンバーグを製造し、各店舗に届けている。牛肉100%のハンバーグは日々製造して冷凍せずに配送。おいしさと安全性を保つためには、移動距離を長くしたくない事情がある。
さわやかを連想させたり、関わりがあるような表現をしたりしてハンバーグを販売している業者や店があるが、さわやかとは一切関係ないという。さわやかのハンバーグを食べられるのは県内の34店舗のみ。各店が予測する日々の来客数と注文数に基づいて製造され、常につくりたてを提供する仕組みを作っている。
「接客」へのこだわりも地域密着の店舗展開に関連している。さわやかには近年増えているタブレットのメニューやドリンクバーがない。食事を運ぶロボットもいない。スタッフが席を訪れて接客する昔ながらのスタイルを創業から今も変わらず続けている。なぜ、時代に逆行するように接客に手間や人件費をかけるのか。広報担当者が説明する。
「さわやかでの体験が、かけがえのない思い出になってほしいと考えています。料理の味だけではなく、目の前でハンバーグを切ってもらう感動やスタッフとの会話も大切にしてきました」

さわやかの看板メニュー「げんこつハンバーグ」
■店舗を支えるパートナー 接客で重視する「感動体験」
さわやかでは「従業員自身が感動した経験」をとても大切に考えている。さわやかにお客として訪れて感動した経験のあるスタッフは、自分がスタッフになった時に来店客を感動させたいという思いを自然に持つことができるという考え方だ。広報担当者が語る。
「さわやかはたくさんのパートナー(パート・アルバイト)の方々に支えられています。その多くが子どもの頃、さわやかでの体験に感動した思い出があります。今度は自分がスタッフとして、お客さまに素敵な思い出をつくってもらいたいと考えるわけです」
店舗を限定するさわやかの方針は結果的にブランド価値を高めた。県外から交通費をかけてまで多くの人が来店する。また、セルフサービスが当たり前の若い世代にとっても、昔ながらの接客は新鮮かつ感動があり、人気に拍車がかかっている面もある。
「創業当初から支えてくれた静岡県の地域一番店でありたい」、「味だけでなく体験価値を提供したい」。創業者の富田重之氏が大切にしてきた理念が正しかったと、現在の評価が証明している。
(間 淳/Jun Aida)