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2025/05/16

「木曜は休みます」 静岡の超人気店「さわやか」 チェーン店の常識に逆らった真の狙い

■昨年9月から木曜定休を“復活” 飲食未経験だった創業者の発想

お客様は、もちろん大切。そして、同じくらい従業員も大切な存在だと考えている。静岡県内限定で店舗を展開する「炭焼きレストランさわやか」は飲食チェーン店では珍しく定休日を設けている。さらに、スタッフの研修にもしっかりと時間をかける。そこには創業当初からの明確な方針があった。

 

「中が赤いけど大丈夫?」の声に終止符! さわやかのハンバーグが安全な理由に納得

 

さわやかは昨年9月1日から、商業施設に入っている一部店舗を除いて毎週木曜日を定休日にした。その理由を自社ホームページで次のように説明している。

 

「週1日の店舗定休日をいただくことで、店長をはじめとしたスタッフ全員が家族や仲間とだんらんする時間を持ち、心身ともにリフレッシュする機会を定期的につくることができます。それにより、だんらんの大切さや自分たちの仕事の意義を再認識するとともに、よりイキイキと働ける職場の実現にまた一歩近づけると考えています」

 

実は、さわやかは元々、木曜日を定休日にしていた時期があった。飲食チェーンは年中無休が当たり前と思われていた中で、創業者の富田重之氏は「定休日をつくって従業員育成に力を入れる必要がある」と考えていた。飲食業が未経験だった富田氏ならではの発想と言える。

さわやかの創業者・富田重之氏(さわやか提供)

■従業員にも団らんの時間 休日とは異なる定休日の意義

ただ、バブルが崩壊して景気が悪化し、さらにはファミリーレストランやファーストフード店による低価格競争が激化した影響を受けて木曜定休は廃止となった。不況下にあっても味や接客の質を維持するために、定休日を設けずに店舗運営せざるを得なくなったという。

 

もちろん、定休日はなくても、従業員には休日がある。ただ、店長をはじめとする店舗責任者は休日であっても店舗が営業していると心が休まらない。店長経験もある広報担当者は、こう話す。

 

「店長は、自分が不在の休暇日にこそ店舗の状況が気になってしまいます。外食チェーン店は定休日がないのが当然のようになっていますが、従業員にも家族や友人がいます。さわやかは、飲食を通じて、お客様にだんらんや幸せな時間を届けたいと日々仕事に取り組んでいます。それならば、従業員にもそういう時間を少しでも多く持ってほしいと考えました。」

 

 週に1回、定休日にしてから半年以上が経った。店長を中心とした従業員からは、家族や仲間と休日を過ごした話題の中で、自分の体験した「だんらんの喜び」をお客様にも体験してほしいと感じた、という声が多く聞かれるようになった。

さわやかは静岡県内で34店舗を展開

■研修期間の長さも特徴 店で接客するまで1か月

来店客も定休日への理解を示している。中には「木曜日しか行けないから困る」という声もあったが、「従業員さんのために定休日は大事」など予想以上に好意的な意見が多かった。県内にある34店舗のうち、御殿場プレミアム・アウトレットや新静岡セノバといった商業施設に入っている4店舗は木曜日も営業している。それぞれの施設の営業時間に合わせる必要があり、年間に数日の定休日が設けられている。

 

定休日のほかにも、従業員に関わる方針で他の外食チェーン店との違いがある。研修期間の長さも、さわやかの特徴だ。ファミリーレストランやファーストフード店の多くは、数日間のトレーニングを経て実際の接客をスタートする。ところが、さわやかの従業員が一人前にお客様を担当するまでには1か月近くを要する。

 

例えば接客では、さわやかはお客様にハンバーグの特徴や食べ方を説明しながら、目の前でハンバーグをカットするサービスを提供している。一人前になるまで練習を繰り返し、店長のお墨付きが出て初めてお客様のハンバーグをカットできる。トレーニング期間が長くなれば人件費の負担が大きくなるが、その費用は必要なものであると捉えている。広報担当者が語る。

 

「さわやかではオーダーの取り方ひとつとっても時間をかけて研修します。接客が上手くできなくてお客さまに嫌な思いをさせてしまったり、注意されたりすると従業員のモチベーションが大きく下がり、辞めてしまう要因となります。失敗から学ぶこともあるので、上手くいかない経験は大事です。ただ、防げる失敗は研修で学んで回避すべきだと考えています。お客様に喜んでいただく接客をすることはもちろん、従業員が不安なく接客を楽しみ、相手の立場で気配りができるようにトレーニングに時間をかけています」

 

人件費の高騰を課題に感じる企業が少なくない中、さわやかは人への投資を惜しまない。その姿勢は新型コロナウイルスが感染拡大した際もブレなかった。緊急事態宣言が発令された時期に約1か月半、全34店舗を休業。その間、従業員を1人も解雇せず、給与も支払い続けた。「働く人が豊かでなければ、幸せを感じる食事の場をお客様に提供できない」。創業者の思いは変わらずに引き継がれている。

 

(間 淳/Jun Aida)

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