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2026/03/15

「刑務所から出たくない」 3500人の治療から見えた真実 性犯罪を防ぐには?

被害者のケアや支援が必要なのは言うまでもない。ただ、それだけでは性犯罪の根本は解決しない。埼玉県にある西川口榎本クリニック副院長の斉藤章佳さんが2月21日、静岡市で講演。性加害者の臨床に長年携わってきた経験から、再犯を防ぐには「つながり」が不可欠と説いた。【全4回の4回目】

 

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■被害者支援だけでは不十分 加害者治療の必要性

一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会」は国内でも数少ない性教育の実践研究団体で、静岡県のサークルにも多くの教育や医療関係者をはじめ性教育に関心のある人が所属している。今回主催した定例会「子どもへの性加害~これだけは知っておきたい性的グルーミングについて~」では、埼玉県にある西川口榎本クリニックで副院長を務める斉藤さんを講師に招いた。

 

斉藤さんは約20年に渡って性加害者の再犯を防ぐ取り組みに、治療に深く携わっている。誤解されがちだが、加害者を支援するわけではなく、「責任を取る存在に教育する目的」があるという。

 

「被害者支援と加害者臨床は車の両輪。日本は被害者対策に偏りがちで、それでは不十分です。加害者の対策なしに、効果的な被害者支援はできません。加害者は支援やケアされる存在ではなく、第一義的に自らの加害行為に向き合って責任を取れる存在にならなければいけません。責任を取らない無責任な加害者を、責任を取ることができる存在にしていく必要があります」

 

斉藤さんが勤務するクリニックでは、当時者伴走型の取り組みを進めている。警察で逮捕・勾留された段階で加害者と面会し、治療や再犯防止のプログラムを組み立てる。これは短期的なものではない。斉藤さんは「プログラムは一生やるべきだと思っています。被害者の傷には時効がありません。被害者は加害者が刑を終えても、ずっと苦しんでいるわけです。加害の責任に向き合う作業は、ずっと続けなければいけません」と話す。

写真はイメージ

■「刑務所から出たくない」 性加害者の切実なメッセージ

斉藤さんのプログラム受講者は、この20年間で3500人を超えている。加害者の治療には、再加害を抑止する効果がある。だが、国が治療命令を出せるような強制治療制度が日本にはないため、治療につながる動機付けを見極めるのが難しい。斉藤さんが語る。

 

「治療に来る多くの人は、家族の勧めや裁判といった外発的な動機付けが主な要因です。しかし、外発的動機付けは自分の主体的な意志ではないので、長く続きません。プログラムの中で、いかに内発的動機付けを育んでいくのかが大事になります。プログラムに長く取り組んでいる他の当事者を割きゆく仲間(ロールモデル)として、自分も変わりたいし、あの人のように生きたいというような意識が強くなります」

 

常習化している性加害の問題は自分の意志だけで止めるのは難しい。彼ら自身も再犯の恐怖を感じているという。斉藤さんはセミナーで、過去に子どもへの性加害を犯した受刑者のエピソードを披露した。その受刑者は、累犯だったという。

 

「ある性加害者は、このまま刑務所から出たくないと話していました。それは、自分でも子どもへの性的嗜好を制御できないと分かっていたからです。これは、非常に切実なメッセージです。出所する時に今度こそ立ち直ろう、生き直そうと決意しても、様々な困難が待ち受けています。満期出所の累犯性犯罪被害者が『カネ(金)、ヤサ(帰住予定地)、ガラウケ(身柄引受人)なし』で出所する状況は、最も再犯に近い状況と言えます。日本の刑事司法は罪を犯した人をどんどん更生から遠ざけていく仕組みになっていると感じることがあります」

静岡市で開催された「“人間と性”教育研究協議会・静岡サークル」の定例会

■再犯のトリガーは排除と孤独 再犯防ぐ仕組みは不十分

刑期を終えて社会に戻っても、自分の力だけで生きていくにはハードルが高い。罪を犯したことで家族や親戚などと縁が切れてしまい、お金も住まいも身元引受人もない状況に陥るケースは少なくない。仮に就職できたとしても、デジタルタトゥーで過去の事件が明らかになって居場所を失う可能性もある。斎藤さんは、こう話す。

 

「再犯する人の共通点は、社会から排除されて孤立した時に自暴自棄になってしまうことです。自己否定的な感情を解消するために、慣れ親しんだ性加害を選択してしまうわけです。この負の連鎖を止める仕組みをつくっていかなければ、性加害の連鎖を止められません」

 

斉藤さんは、性加害者を治療する専門機関や社会復帰を橋渡しする受け皿や伴走者が圧倒的に不足していると訴える。性犯罪とは無縁の人にとっては、社会からの孤立は加害者が犯した罪の1つと捉えるかもしれない。だが、「加害者を突き放しても問題は解決しない」と斉藤さんは力を込める。排除と孤立こそが、再犯の最大のトリガーとなるのだ。

 

性加害をする人への誤解も、再犯を抑止する壁となっている。斉藤さんは「性暴力や性犯罪は、性的欲求によるものだけではありません。そんな単純なものではないんです。性加害者には、支配や優越、力の確認など様々な欲求があります」と語る。

定例会で講師を務めた斉藤さん

■「強くなるより賢くなれ」 弱さの自覚が性加害を止める一歩

斉藤さんは数多くの性加害者と接する中で、「男性的な強さ」が共通の価値観になっていると感じている。クリニックのプログラムでは「強くなるより賢くなれ」を掲げ、強さへの執着を解放することに重点を置く。

 

プログラム受講者は自分にとっての再犯リスクが高まる状況やトリガーを特定し、それに対する具体的な対処行動を学びます。つまり、それは自身のウィークポイントをしることになります。このウィークポイント(弱さ)を知って言語化し、同じ悩みに直面する仲間の前で自分の弱さをオープンにする。斉藤さんが意図を説明する。

 

「まずは、自分の弱さを知って向き合うこと。そして、その弱さが仲間の強さにつながっていく体験を重ねていきます。自分の弱さが仲間の強さに変換され、その強さが加害を止め続ける行動につながっていくと理解できれば、再加害のリスクを抑えられます」

 

性犯罪は落ち度のない人が被害者になる。その裏には、加害者自身の生きづらさもある。斉藤さんは「生まれつきの性加害者はいません。社会の中で加害者になっていく。だからこそ、専門治療や学習で更生や社会復帰が可能だと考えています」と話す。

 

加害者を責めるのは簡単だろう。しかし、それでは次の被害者を生む構造を変えることはできない。

 

(間 淳/Jun Aida

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