2026/08/26
あえて非効率な手法を選ぶ深いワケ 浜松の創業91年の老舗が貫く 「損得よりも善悪」

店内に陳列されたハチミツ(公式HPより)
■浜松市の「長坂養蜂場」 山で遠心分離機をかけない手法
時間も手間もかかる。だが、ぶれない信念とプライドがある。創業91年を数える浜松市の「長坂養蜂場」では、純度の高いハチミツへのこだわりを貫く。作業効率が良くないと分かっていても手法を変えない理由には、品質だけではなく、ミツバチへの優しさも込められている。
長坂養蜂場の”ぬくもりある”接客 食パン一斤を購入した家族を感激させたサービスとは?
1935年に旧三ヶ日町(現在は浜松市浜名区三ヶ日町)で創業した長坂養蜂場は、自社の養蜂場で採ったハチミツやハチミツを使った商品などを販売している。店舗がある三ヶ日町は人口1万4000人ほどの小さなまちにもかかわらず、静岡県内外から年間45万人が訪れている。
この人気を支え、長坂養蜂場にとって命とも言えるのは当然ながら「ハチミツ」だ。口にした人からは「ハチミツの概念が変わった」と驚きの声も上がるが、専務を務める長坂恭輔さんは「会社として特殊な技術を持っているわけではありません」と話す。
ただ、こだわりは強く、妥協がない。例えば、一般的な養蜂場は山で採蜜する際、巣箱からハチミツを採り出して、遠心分離機と呼ばれる機械を使ってハチミツを取り出しながら不純物を除去する。一方、長坂養蜂場では工場に持ち帰ってから、分離機にかける。その理由を長坂さんが説明する。
「現地で遠心分離機にかけた方が作業効率は良いです。ただ、ミツバチがハチミツを取り返そうとブンブン飛んでいるため、ハチが分離機に入って死んでしまうケースがあります。もちろん、後から微細なメッシュでこすので異物は取り除かれますが、一時的にミツバチやミツバチについた花粉等もハチミツに入ってしまいます」

ロングセラーとなっている「二代目の蜂蜜」
■「損得よりも善悪」 手間を惜しまず純度の高いハチミツを追求
長坂養蜂場では、限りなく純度の高いハチミツを追い求める。そのための時間や手間、コストを惜しまないのだ。それは同時に、ミツバチの犠牲を防ぐ手段にもなっている。
他にも、巣箱の一段目と二段目の間に板を敷いている。これは、二段目にハチミツ以外のものが入らないようにするためだという。板がなければ、女王バチが二段目に入り込んで卵を産んだり、ロイヤルゼリーや花粉が入ったりする可能性がある。
純度によって、ハチミツは味にも色にも違いが表れる。長坂養蜂場のハチミツは味だけではなく、見た目も透明度が高くて美しい。
もしかしたら、現地で遠心分離機にかけたハチミツでも購入者を十分満足させられるかもしれない。なぜ、あえて非効率で大変な道を選ぶのか。そこには、明確な基準がある。
「損得よりも善悪」

自社商品を紹介する長坂専務
■商品開発でも「善悪」が基準 試作段階で断念した商品も
長坂養蜂場では採蜜に限らず、商品開発や店舗での接客など、あらゆる場面で「損得」ではなく「善悪」を基準としている。長坂さんが語る。
「手間やコストがかかっても、どちらの方がお客さまにより良いハチミツやサービスを届けられるのか。その判断の積み重ねが、長年支持をいただいている理由だと思っています。短期的に見ると『こんなに時間や手間をかけて大丈夫?』と社外から心配される時もありますが、自分たちにとって損か得かで物事を決めたくない気持ちが強いです」
ハチミツにこだわっている以上、ハチミツを使った商品にも手を抜かない。新しい商品の開発では、メーカーが驚くほど試作を何度も繰り返す。納得した商品しか店頭に並べないため、試作段階で断念した商品も少なくない。長坂さんは「どれだけ試作でロスを出しても妥協はしません。お客さまにお金を出して買っていただくものですから。求める味を出せない場合は販売せず、従業員に配ることもあります」と話す。
思いが詰まったハチミツや商品は、他の店と比べると割高に感じるだろう。しかし、全国各地からリピーターが訪れているのは、価格に見合う価値を見出しているから。長坂養蜂場には、ここにしかない味がある。
(間 淳/Jun Aida)








