2025/10/27
政府目標は4年後 地方では厳しい「時給1500円」 中小企業が嘆く”現実の壁”
■2029年に時給1500円 「達成できる」企業は27.6%
政府が掲げる「最低賃金1500円」達成に向けた道のりは、地方ほど険しい。全国の企業で、2029年までに「達成できる」と答えた割合は27.6%にとどまった。静岡県も状況は厳しく、現在の採用時最低時給の平均は1142円で全国平均を63円下回っている。
民間の調査会社・帝国データバンクが9月に実施した「最低賃金に関する企業の実態調査」によると、企業が従業員を採用する際の最低時給は全国平均1205円だった(正社員、非正規社員問わず)。1年前の調査から38円上昇し、全国の今年度の最低賃金平均を84円上回っている。
業界別では、「不動産」(1284円)が最も高く、「サービス」(1260円)、「建設」(1250円)、「製造」(1144円)などが続いた。一方、「飲食店」(1105円)や「旅館・ホテル」(1080円)は全国平均を大きく下回り、同じサービス業の中でも格差が広がっている。
都道府県でも格差は大きい。1200円を超えたのは東京(1381円)、神奈川(1321円)、大阪(1275円)など7都府県にとどまり、地方では賃金上昇のスピードが追いついていない。静岡県は1142円で全国平均を下回っている。
さらに、最低賃金引き上げによる「消費への波及効果」を尋ねた質問では、「ある」と答えた企業は12%しかない。「ない」が49.4%と約半数を占めた。企業からは「可処分所得が増えない」、「将来不安から消費に回らない」といった意見が目立つ。中小企業の中には「賃金を上げても物価上昇に追いつかず、従業員の生活実感は変わらない」と嘆く声もあった。
■静岡県の企業は苦悩 「政府は中小企業を潰したいのだろう」
政府が目標に掲げる「2029年までに最低時給は1500円」を達成できるかの問いには、38.7%が「可能だと思わない」と回答した。以下、「どちらとも言えない」の26.7%、「可能だと思う」の21.0%が続いた。残りは、「すでに1500円以上」または「分からない」と答えている。
帝国データバンクは「企業は賃上げを継続しているものの、物価高騰や人件費負担の増加が続き、賃上げ余力は確実に低下している」と指摘する。2029年までの最低時給1500円達成については「都市部を除くと現実的には難しい」との見方を示した。
静岡県内でも最低賃金の上昇に伴い、企業間で人材確保競争が激化している。製造業では正社員の昇給やパート時給の見直しが続き、飲食業では価格転嫁の難しさが経営を圧迫している。県西部に製造業の中小企業からは、ため息が漏れる。
「売手市場で求職者は転職先を選べる状況が続いている。様々な企業を比較する中で、中小の製造業を選ぶ人は非常に少ない。深刻な人材不足を解消するには賃上げが絶対条件だが、時給1500円を支払うだけの企業体力はないのが現実。2029年までに1500円に上げるのはペースが急すぎる。政府は中小企業を潰したいのだろう」
規模の小さな企業を中心に、賃上げの理想と経営の現実のはざまで苦しむ企業は少なくない。最低賃金の引き上げが地域経済を支える中小企業の成長につながるのか、政策の判断や対応が問われている。
(SHIZUOKA Life編集部)








