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2022/10/27

2つの商品でグッド・トイ受賞 浜松市のメーカーが大切にする良いおもちゃ3つの定義

子どもが夢中になる「コロンブスのつみき いろかたちあそびセット」

■浜松市の「シャオール」 開発した10種類のおもちゃのうち4種類で受賞

 「売れるおもちゃ」と「良いおもちゃ」は違う。静岡県浜松市にある知育玩具メーカー「シャオール」は、2つの商品で「グッド・トイ2022」を受賞した。2013年に設立後、10種類のおもちゃを開発・販売し、4種類目の受賞。自社のおもちゃへの評価を光栄に感じながらも、目指す方向性は何も変わらない。良いおもちゃに不可欠な3つの基準を大切にしている。

 

 NPO法人「芸術と遊び創造協会」が今年の「グッド・トイ」45点を発表し、浜松市にある「シャオール」のおもちゃが2点選ばれた。グッド・トイは1985年、おもちゃを選ぶ親や祖父母の目安にする目的でスタート。日本だけではなく、ドイツ、スイス、タイなど世界各国のおもちゃメーカーも対象となっている。

 

 シャオールのおもちゃは、今年のグッド・トイで静岡県から唯一の受賞となった。しかも、「コロンブスのつみき いろ・かたちあそびセット」と「わっかボール」の2つが選ばれている。2013年に会社を設立してから主に10種類のおもちゃを開発・販売しているが、グッド・トイに選ばれたおもちゃは4種類となった。

 

 アイデアを練り、形にして販売した商品が高く評価される。親や祖父母へのおすすめおもちゃとしての“お墨付き”は、多くのメーカーが目指すゴールの1つでもある。しかし、シャオールの社長・宮地完登さんの目は別のところへ向いている。

 

「評価していただけるのは、ありがたく思っています。ただ、仮に評価されなかったとしても、何かを変えることはありません。自分たちの中にある思いは同じですから」

グッド・トイを受賞した「コロンブスのつみき いろかたちあそびセット」

果物の形がかわいい「わっかボール」もグッド・トイを受賞

■大切にする3つの条件 「コミュニケーション」「広がり」「安全性」

シャオールにはぶれない考え方、良いおもちゃの定義がある。全部で3つ。これまで発売した全てのおもちゃに共通している。

 

まずは、「コミュニケーション」。おもちゃを通じて、子どもと親や祖父母のコミュニケーションが育まれるように心掛けている。宮地さんは言う。

 

「子どもの成長を支えるのが、おもちゃの一番大切な役割です。おもちゃがなくても子どもたちが健やかに育てば良いんです。でも、良いおもちゃがあったら、子どもが成長する機会を増やせると思っています」

 

おもちゃの詳しい特徴は後日の記事で紹介するが、今回グッド・トイを受賞した2つのおもちゃも、子どもと大人のコミュニケーションを豊かにする作りになっている。シャオールのおもちゃには、対象年齢が0歳児の赤ちゃんであっても、親や祖父母との会話を生み、自然と笑顔にしたい思いが込められている。

 

2つ目は「広がり」。シャオールのおもちゃはボタンを押して音が鳴ったり、光ったりしない。遊び方を制限しないために、作りをシンプルにしている。宮地さんは「説明書通りに遊ぶおもちゃとは逆で、開けたらすぐに好きなように遊べるおもちゃを意識してつくっています。メーカーが『こうやって遊ぶ』と示すのではなく、どうしたら自由に遊び方が広がっていくかを大切にしています」と語る。

 

機能がたくさんついたおもちゃは、メーカーの技術や苦労が詰まっているように見えるが、おもちゃとしての広がりは少ない。シャオールは、できるだけシンプルにする作業に時間をかけ、子どもたちの成長につながる遊び方の可能性を広げている。

 

最後は「安全性」。おもちゃで遊ぶのは子ども。中には0歳児から使うものもある。安全なのは当たり前と感じるかもしれないが、絶対に忘れてはいけない条件なのだ。

「売れるおもちゃ」ではなく「良いおもちゃ」にこだわる宮地さん

■売れるおもちゃは分かっていても…昔ながらのおもちゃにこだわるワケ

スマートフォンやテレビゲームの普及によって、昔ながらのおもちゃは、かつてのような存在感を示せなくなった。最近は、スマホやタブレットを操作する1歳、2歳の子どもを目にすることも少なくない。だが、決して、おもちゃの必要性が薄れたわけではない。むしろ、役割は大きくなっているかもしれない。

 

宮地さんは「理想だけでは子育てはできません。保護者は大変ですから」とスマホやゲームを否定しない。ただ、おもちゃには「リアルなコミュニケーション」があると訴える。

 

「動画サービスやゲームは、どうしても受動的になってしまいます。子どもたちの考える機会や大人とのコミュニケーションの機会が減ってしまいます。何が正解かではなく、子どもたちが自分で考えながらおもちゃで遊び、大人が声かけや働きかけをする。それが子どもの成長や情緒の安定につながると考えています」

 

宮地さんは起業前、おもちゃの問屋で働いていた。メーカーと販売店をつなぐ役割を担い、どんなおもちゃが売れるのか肌で感じてきた。「頭が良くなる」といったキャッチコピーや、人気キャラクターを使ったおもちゃを無条件で手にする人がいるのを知っている。

 

実際に会社を経営する立場となり、当然ながら売上を立てなければならない。しかし、「売れるおもちゃ」には目を向けない。追求するのは「良いおもちゃ」。宮地さんは「英語や数字を早く覚える教育よりも、子どもに必要なのは不安なく安心して毎日を楽しく生きられる環境です。コミュニケーションの時間をつくって、感情や自己肯定感を育まなければ、どんなに知識を詰め込んでも意味がないと感じています」と話す。そして、こう続ける。

 

「幼少期に心の土台をつくることが大事です。大人がたくさん話を聞いて、子どもの成長に気付いて褒めたり、一緒に遊んだりする積み重ねだと思います」

 

早期教育は目に見える成果が表れやすいため、大人にとっては心のよりどころになる。スマホやゲームも、大人にとっては都合が良い。だが、見失ってはいけないのは、おもちゃは誰のためにあるのか。シャオールが開発するおもちゃに、その答えがある。

 

(間 淳/Jun Aida)

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