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2026/03/10

旧ジャニーズ問題の根源にもグルーミング 子どもを操る巧妙な手口 優しさは“エサ”

社会に大きな衝撃を与えた旧ジャニーズ事務所の創設者・故ジャニー喜多川氏による性加害問題は、今も被害者の救済や補償が続いている。この問題を取り上げたドキュメンタリーを放送した英国の公共放送「BBC」では、問題の本質に「グルーミング」を指摘した。性的グルーミングの手口は巧妙で、被害者が加害者に敬意や愛情を抱いているケースも多いという。【全4回の2回目】

 

「トイレは性犯罪の温床」 専門家が解説する手口と被害の防ぎ方

 

■ジャニー喜多川氏の性加害 問題の背景にグルーミング

グルーミングと聞くと、猫の毛づくろいをイメージする人は多いかもしれない。しかし、近年は日本でも別の意味が少しずつ浸透してきた。性犯罪の問題で使われる時、グルーミングは「性暴力を目的に子どもに優しく接し、信頼関係を築いていく性的懐柔」を表している。

 

BBCが2003年、大々的に報じたジャニー喜多川氏による性加害問題は記憶に新しい。BBCは被害者の証言をもとに、ジュニアと呼ばれる少年たちに性的虐待を繰り返したとされる故ジャニー喜多川氏を厳しく断じた。そして、問題の背景にはグルーミングがあると断言した。

 

被害を受けたジュニアたちは長期間にわたって故ジャニー喜多川氏からマインドコントロールされた状態となり、正常な判断力を失ってしまう。中には、「今でもジャニーさんを尊敬している」、「自分を一番理解してくれる存在」といった言葉を口にする被害者もいる。

写真はイメージ

■性的グルーミング3つの種類 SNS経由が急増

性被害の加害者臨床に長年携わってきた、埼玉県の「西川口榎本クリニック」で副院長を務める斉藤章佳さんは2月21日、静岡市で「子どもへの性加害~これだけは知っておきたい性的グルーミングについて~」をテーマに講演した。その中で、性的グルーミングには主に3つの種類があると説明した。

 

①顔見知りの人から(家族・教師など)

②顔見知りではない人から(通りすがりの人など)

③SNS(InstagramやX、ゲームアプリなど)

 

3つの中で、最近相談が急増しているのはSNSを介してのグルーミングだという。SNSの普及によって、大人は面識のない子どもにアクセスするハードルが低くなった。性加害者は子どもたちの流行りやSNSの使い方を学んでいる。そして、関心を示しそうな投稿を“エサ”にして、釣り糸を垂らすように子どもたちと接点をつくる。斉藤さんは講演で、こう話した。

 

「性加害者にはグルーミングの戦略があります。共通しているのは、やさしさです。彼らは異常なまでにやさしく、子どもたちに寄り添います。受容、共感、傾聴がとにかく上手いんです。子どもたちの言うことを絶対に否定せず、時に有益な情報や報酬を与えます」

 

■分離→信頼→身体的接触→虐待後の維持行動 段階踏んでグルーミング

きっかけはSNSでも対面でも、性加害者は段階を経てグルーミングを進めていく。まずは、「被害者の選択」。孤独を感じているタイプや自分に自信がないタイプなど、物理的または心理的に頼れる大人がいない子どもをターゲットに選ぶ。

 

次の段階は「分離」。ターゲットに定めた子どもが家族や友人と距離を取る環境をつくっていく。保護者不在のボランティアやお泊まり会に参加し、加害者はターゲットの子どもと交流を深めながら、他の大人からは離れる状況を増やす。

 

分離の後は「信頼」。ターゲットとのコミュニケーションを深め、褒めたり共感したりして、信頼される関係を築いていく。ターゲットとの距離が縮まってきたら、「性的コンテンツや身体的接触」へと移る。最初は性的な言葉やジョークを言ったり、偶然を装って体に触れたりし、次第にアダルトコンテンツを見せたり、身体的接触を増やしたりしていく。斉藤さんは次のように説明する。

 

「最初の接触は、『虫が服の中に入ったから取ってあげる』と声をかけて、プライベートゾーンに手を入れていくような自然で巧みなやり方です。そして、性加害者は子どもが初めてアダルトコンテンツに触れた時の反応を見て喜びます。子どもには性的な知識がないので、加害者側の性的な価値観を刷り込んでいきます」

 

最後の段階は「虐待後の維持行動」。加害者は子どもに「君は特別な存在」、「2人で話したことは誰にも言わないように」などと伝える。身体的な接触は正常という誤った基準を植え付け、報酬や罰を与えながら手なずけていく。

「“人間と性”教育研究協議会・静岡サークル」定例会で講師を務めた斉藤さん

■性被害を受けても「警察に通報しないで」 歪んだ信頼関係

グルーミングによって歪んだ信頼関係が構築されると、被害を受けた子どもたちは加害者を味方と認識する。そのため、性犯罪が発覚した時も、被害者からは「あの人は悪い人ではない」、「警察に通報しないでほしい」といった声が周囲に上がる。

 

斉藤さんは「グルーミングは点ではなく線。連続性があります」と表現する。そして、性暴力は「対等な関係では生まれない」と力を込める。グルーミングをする加害者は、被害者に対して圧倒的な関係を持っていて、その権力勾配を利用しながら支配していく。その環境や空間の定義権を持っていると、斉藤さんは言う。

 

「加害者側は同意の上だったと主張しますが、グルーミングの被害者は前提として性交同意年齢以下であることも多く、性暴力を受け入れたわけではありません。私は、性暴力の本質が支配だと考えています。小さくて弱い人を支配することで、自分の心の穴(傷ついた自尊感情)を埋めるメカニズム。支配欲求が性暴力の本質です」

 

日本ではグルーミングの認知や理解が欧米諸国と比べて遅れている。それでも、2023年7月に「16歳未満の者に対する面会要求等罪」、通称「グルーミング罪」が施行された。16歳未満に対して、わいせつ目的の面会や映像送信を要求する行為が処罰の対象となった。

 

法整備は犯罪抑止に一定の効果がある。だが、それ以上にグルーミングの特徴や手口を知り、犯罪を未然に防ぐ意識や取り組みの拡大が重要になる。

 

(間 淳/Jun Aida

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