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2024/02/24

中学生が語る恋愛観 昭和と平成の名曲が教材 国語の授業で恋を学ぶ深いワケ

恋愛をテーマにした国語の授業

■島崎藤村「初恋」の授業を応用 様々な恋の形が生きる力に

社会のあらゆる物事は教材になる。焼津市立豊田中学校で「恋愛」をテーマにした国語の授業が行われた。単元名は「私の恋愛観を語ろう」。恋愛の形や捉え方は様々だからこそ学びがあり、生きる力が身に付く。

 

中学3年生の教科書には、島崎藤村の代表的な詩「初恋」が載っている。明治時代に生まれた文語定型詩として有名な作品で、詩の形式を踏まえて描かれている思いを理解し、作品を味わうことに学習の目標がある。

 

大半の教師は、目標を達成したら次の単元へ進む。だが、豊田中の国語教師・石田智子さんの授業は、その先に“本題”がある。石田さんは村下孝蔵さんの「初恋」と宇多田ヒカルさんの「First Love」の歌詞を教材に加え、さらに生徒自らが自身の恋愛観を掘り下げる時間を設ける。島崎藤村の作品は両想い、村下孝蔵さんは片思い、宇多田ヒカルさんは失恋を描いている。

 

中学校の学習指導要領・国語編には、第3学年の「読むこと」領域に「文章を読んで考えを広げたり深めたりして、人間・社会・自然などについて自分の考えを持つこと」という「考えの形成・共有」の指導事項がある。恋愛の視点から人間について考えさせるのだ。

 

「恋は上手くいくものばかりではありません。片思いも失恋もあります。中学生なので、まだ恋の経験がない生徒もいますが、いつか訪れる時に備えて考える機会をつくっています」

恋愛をテーマにした国語の授業ではクラスメートの考え方を読んで感想を伝えた

■片思いも失恋も 大人の想像を超える中学生の読解力

初恋が成就する島崎藤村の作品とは対照的に、宇多田ヒカルさんの「First Love」は失恋を表現している。生徒たちは大人が思っている以上に、歌詞を深く読み解く。例えば、「First Love」の一節「明日の今頃には あなたはどこにいるんだろう」という歌詞から「まだ別れたことを実感できていない」と想像する。「最後のキスはタバコのflavorがした ニガくてせつない香り」からは「苦さを相手に与えているあなたは、もう私のことを大事に思っていない」と捉えた。

 

村下孝蔵さんの「初恋」は「放課後の校庭を走る君」に恋する「僕」の片思いを表現している。自校の放課後の部活動の様子から「君」は男子とも女子とも読め、自分自身を「僕」と言う女子もいることから男子とは限らないと考えると、この恋は異性愛とも同性愛とも考えられると捉えた。さらに、「五月雨は緑色」「夕映はあんず色」には、「名前さえ呼べず、遠くから見つめている僕」の恋は初夏に始まり秋まで続いていると、恋する期間を読み取った。

 

石田さんは生徒が興味を持つ題材を通じて、恋愛は必ずしも上手くいくわけではないことや自分と相手の感情が同じとは限らないことを伝える。そして、自分の考え方が他の人といかに違うかを実感させる場をつくる。「あなたにとって恋愛とは?」。石田さんは生徒たちに問う。

 

驚かされるのは、思春期の子どもに対して教師をはじめとする大人たちが敬遠しがちな恋愛を授業で取り上げている点だけではない。恋愛についてプリントに考えをまとめた生徒たちは、プリントを交換してお互いの感想を伝え合う。自分の恋愛観をクラスメートにも明らかにするわけだ。「あなたにとって恋愛とは?」。生徒たちはそれぞれ答えと理由を書いた。

 

「恋愛とは程よい距離感が大事」

「恋愛とは魔法のように不思議な力を持つもの」

「恋愛とはお酒のように程々に酔って楽しむもの」

 

■「恋愛には相手がいる」 行き過ぎはデートDVの危険

クラスメートの考えを知って、生徒たちは恋愛の捉え方は様々だと理解する。石田さんは、さらに質問を投げかける。「相手のことが好きだから、あなたはどうしたい?」。生徒たちからは「一緒にいたい」、「話したい」、「見つめていたい」と答えが返ってくる。石田さんは1つ1つの声にうなずき、こう語りかける。

 

「恋愛には必ず相手がいます。相手と考え方や愛情の大きさが同じとは限りません。相手への気持ちが大きすぎると、『他の人とは話さないで』、『好きなら何でも言うことを聞いて』と束縛、支配につながる可能性があります。デートDVのリスクです」

 

デートDVは交際相手に対する暴力を指す。殴る、蹴るといった身体的な暴力だけではなく、大声で怒鳴ったり相手の行動を制限したりする精神的な暴力も含む。20代の5人に1人は被害を受けたというデータもあり、中学生にとって決して他人事ではない。楽しいイメージが先行しがちな恋愛は時に、別れる力も必要になる。石田さんは社会に出る前の生徒たちに現実を伝えることで、考える力や生きる力を養おうとしている。

 

「恋愛について教わる機会は、ほぼありません。経験して学んでいくことが大半です。義務教育を終えると様々な道に進み、様々な出会いがあります。そこでは自己責任で切り捨てられてしまうことが少なくありません。大きな問題になる前に、自分の頭で考えて判断する力を育てたいと思っています」

 

恋愛をテーマに生徒たちが自分の考えをクラスメートに伝える授業が成立する背景には、教師と生徒の信頼関係があるのは間違いない。石田さんは現在の3年生が中学に入学した時から授業を担当してきた。

生徒の恋愛観に耳を傾ける国語教師の石田さん

■1年生から性の授業 現代社会生きる力を育成

そして、恋愛以上にプライベートな性の問題を授業で取り上げてきた。1年生の時は「なぜ、遊び感覚でもズボンをずらしてはいけないのか」、2年生の時は「生命誕生や出産」をテーマに生徒たちと向き合った。なぜなら、性の問題は人権と深く関わり、正しい知識がなければ相手を深く傷つけたり、自分も傷ついたり、犯罪に巻き込まれたりする危険があると考えているからだ。石田さんは語る。

 

「恋に関しても色んな考え方を持っている人がいるのは当たり前です。付き合うと言っても自分と相手では認識に違いがあるので、話をしてお互いを理解していきます。恋人であっても、合意や同意が大切だということを授業で伝えています」

 

石田さんは教育の在り方が「知識の習得」から「知識の活用」に変化していると考えている。「正解が見えにくい、正解が1つではないケースが多い現代社会では、自分で解決方法を考えて正解を見つける力が大事になると感じています。言葉を使って思考し、その力をつけることが国語の役割です」。恋愛の形は1つではない。生きる喜びにも、トラブルの原因にもなり得る。だからこそ、社会に出る前に学ぶ価値がある。

 

(間 淳/Jun Aida

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