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2023/08/01

なぜ需要や必要性が高いのに増えない? 場所・人員・経費 学童保育新設のハードル

学童の子どもたちと遊ぶシャオールの宮地社長

■民間の学童運営するシャオール社長「もうけを出せる事業ではない」

待機児童の問題は今、保育園から学童保育(放課後児童クラブ)へと移っている。浜松市の知育玩具メーカー「シャオール」は民間の学童保育を運営している。上限人数の60人はいっぱいで、希望者はキャンセル待ちの状態。学童の需要は高まっているにもかかわらず、受け入れる施設が増えないのは理由があった。

 

少子化が加速する中、学童保育の希望者は増加している。静岡県の速報値では利用希望者が3万7000人を超え、661人が待機児童となっている。保育園の待機児童が3年連続で0人だった浜松市でも、学童の待機児童は190人に上っている。

 

浜松市にある知育玩具メーカー「シャオール」は学童保育の待機児童問題に危機感を抱き、2020年4月に民間の学童保育施設をスタートした。現在、定員の60人は埋まっており、希望者がキャンセル待ちをしている。

 

利用希望者や待機児童の人数を見れば、学童に需要があるのは明らかだ。ただ、施設が増えるペースは遅い。公設の学童保育は場所や人員などに基準が設けられているため、簡単には増やせない事情がある。一方、民間の学童保育にも運営の難しさがあるとシャオールの宮地完登社長は明かす。

 

「正直なところ、もうけを出せる事業ではありません。経営判断として正しいのかは分かりませんが、利益を考えずに必要だと思ったので始めました」

シャオールはレストランの跡地を借りて学童を運営

■人手が必要な時間や時期が集中 学童の特殊な事情

児童を預かるには当然、場所が必要になる。シャオールは元々レストランだった約40坪の建物を借りている。家賃に加えて、光熱費が毎月かかる。そして、学童保育の運営で特殊なのは人材の確保と人件費だ。

 

学童保育を利用する児童が集まるのは放課後。スタッフの仕事は午後4時から6時前後に集中する。経営者として人件費の面だけを考えれば、この時間帯だけ勤務するパートやアルバイトを雇う選択がベストになる。ただ、預かっているのは子ども。宮地社長は「子どもたちや保護者のために、安定して人材や質を確保する必要があります」と強調する。

 

そこで、シャオールでは計5人のスタッフのうち、2人を正社員にしている。学童のスタッフに資格は必須ではないが、2人は保育士や放課後児童支援員の資格を持っている。人手が必要な時間のみ出勤してもらうパートやアルバイトと比べて人件費がかかることを受け入れ、質の高いサービスの提供を重視している。

 

シャオールの学童保育には現在、6校の小学校から児童が通っている。徒歩圏内にあるのは2校。残りの4校には、シャオールのスタッフが車で児童を迎えに行く。ここで、問題が発生する。授業終了のタイミングが重なり、さらに徒歩で来る児童の対応もあるため、一時的に人手が必要になるのだ。

 

シャオールでは人が足りない時、宮地社長夫婦や、知育玩具を製造・販売する本社スタッフがサポートに入っている。学童保育以外の本業があるからこそ対応できるが、民間の学童だけを事業とする企業では難しい。

シャオールが発売するロングセラーのおもちゃ「コロンブスのつみき」

■子どもの創造力は無限 おもちゃ開発のヒントに

特殊性は他にもある。普段は夕方の時間帯に勤務が集中するのに対し、長期休みは朝から夕方まで児童が利用する。今度は、昼の休憩を取る時間にスタッフが手薄になる。宮地社長は「子どもたちとの信頼関係が崩したくないので、短期のアルバイトを募集するわけにもいきません」と話す。

 

「もうけを出せる事業ではない」と言っても、学童の運営を続けていくには赤字を膨らませるわけにはいかない。公設の学童と比べると、利用料金は高くなる。運営に必要なギリギリの金額を設定しながら、質の高さを保っている。利益を求めずに運営できるのは、おもちゃの開発につながる要素もあるから。宮地社長は言う。

 

「学童には私たちがつくったおもちゃも置いています。子どもたちの遊び方は自分たちの想像を上回るので、商品開発のヒントになります。学童を運営する難しさはありますが。本業との相乗効果があると考えて続けている部分もあります」

 

シャオールが販売するおもちゃの特徴の1つは、工夫次第で遊び方が広がるところ。0歳から遊べる未就学児向けの「コロンブスのつみき」は、小学生が手に取ると巨大な機関銃に変身する。積み木に穴が開いており、穴に入る大きさのパーツを釘のように使えるため、たくさんの積み木をつなげても安定感が保てる。宮地社長は「小学生が本気で遊ぶと、こんな遊び方や可能性があるんだとうれしくなります。想定と違った景色を見るのは楽しいですし、自分たちの商品に自信を持てます」と笑顔を見せる。

 

会社を経営する以上、利益を求めなければならない。ただ、それ以上の価値がある事業もあると宮地社長は考えている。「子どもたちや地域のためになるのであれば、もうけが出なくても良いと割り切っています。民間の学童保育が増えれば社会の問題が解決するので、学童の運営を考えている方にはノウハウを惜しみなくお伝えします」。願いは1つ。学童保育の待機児童ゼロへ一翼を担う。

 

(間 淳/Jun Aida

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