2026/03/13
なぜ教師の性加害は起きるのか? 評判良いタイプがリスクに 教育現場のグルーミング

静岡市で開催された「“人間と性”教育研究協議会・静岡サークル」の定例会
子どもにとって、最も安全な場所の1つであってほしい教育や保育の現場。しかし、ごく一部の性加害者によって、安全性や信頼が揺らいでいる。日本版DBSで性暴力やグルーミングは防げるのか。国に任せるだけではなく、教育現場や家庭で学びの場を設けなければ、子どもたちの被害は止められない。【全4回の3回目】
旧ジャニーズ問題でも指摘された「グルーミング」 子どもを操る巧妙な手口
■ベビーシッターが強制わいせつ 塾講師の盗撮事件も
日本版DBSが今年12月から施行される。これは英国の犯罪経歴管理・証明発行システム「DBS」を参考にしたもので、子どもに関わる仕事をする人を対象に子どもへのわいせつ行為や性犯罪歴の証明を求める制度となっている。
日本版DBSの必要性が訴えられ、施行のきっかけとなった出来事の1つが「キッズライン事件」だ。この事件はベビーシッターアプリ大手「キッズライン」に登録していたベビーシッターの男が、男児への強制わいせつ容疑で逮捕された。この男は、シッターの派遣先やボランティアスタッフを務めていたキャンプ場などで計20人の男児にわいせつ行為をした罪などで、懲役20年の判決を受けている。
キッズライン事件後に日本版DBSの議論が盛り上がる中、社会を震撼させる別の事件も起きた。大手学習塾の講師が塾生を盗撮し、撮影した画像や動画を会員制のSNSコミュニティで共有していた。
性犯罪の加害者臨床に長年従事している西川口榎本クリニック副院長の斉藤章佳さんは、日本版DBSの難しさを指摘する。一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会・静岡サークル」が2月21日に静岡市で開いた定例会「子どもへの性加害~これだけは知っておきたい性的グルーミングについて~」で、次のように話した。
「キッズライン事件では、被告の男性はボランティアの指導員として参加した全国のキャンプ場で複数の男児に性加害をしていました。これは日本版DBSの対象になっていません。どこまでの範囲でDBSのチェックをすれば良いのか、簡単にはいかない側面があります。性加害者は加害行為を達成するために抜け道を見つけるのが得意です」

写真はイメージ
■男性の5%が「小児性愛症」 性加害に及ばない人も多数
斉藤さんによると、子どもに性的嗜好を持つ「小児性愛症」の男性は人口の5%を占める。ただし、小児性愛症の患者が必ずしも小児性犯罪者になるわけではない。斉藤さんは「児童への性的嗜好があっても、加害行為の実行に移さない人は多数います。日本では内心の自由が認められています」と説明する。
小児性愛症には、純粋型と混合型の2つのタイプがあるという。純粋型は13歳未満のみ、混合型は13歳未満も13歳以上も性の対象とする。斉藤さんはクリニックを受診した純粋型の男性から、こう吐露されたことがある。
「自分は中学生にも欲情できない純粋型の小児性愛症なので、合法的に性欲を解消する方法がほとんどありません。法令を順守すること自体が生きづらさにつながります。だからこそ、同じ生きづらさを持っている人たちとつながるようになりました。これが、性加害のトリガーになりました」
キッズライン事件をはじめ、性加害者は性的な意図を隠しながら子どもたちに近づく。保育施設や学校、学習塾でも性暴力が起きている。普段近い距離にいる大人ほど、子どもたちが危険を察知するのは難しい。中には、児童や保護者から人気があり、同僚や上司からも信頼されている教師が性加害をするケースもあると斉藤さんは語る。
「これは、環境に対するグルーミング(性的懐柔)です。周りから評判の良い大人から性暴力を受けると、被害児童は声を上げられません。どうせ自分が言ったことは信じてもらえない、もし公にしたら自分が住んでいる世界がすべて壊れてしまうという恐れを感じるからです。性加害者は時間をかけて被害者の環境をコントロールし、被害者を身体的・心理的に孤立させます」

定例会で講師を務めた斉藤さん
■グルーミングの判断難しい学校生活 漫画の活用が有効
教員であれば、空いている教室を自由に使える。一方、生徒は空き教室に勝手には入れない。他の児童や教員、保護者がいない時間や空間をつくり、環境をコントロールできるのは加害者なのだ。さらに、子どもたちは教員に対して、どこまでが善意で、どこからがグルーミングなのか判断するのが難しい。
そこで、斉藤さんは包括的性教育の重要性を説き、特に漫画の活用を勧めている。さいきまこさんの作品「言えないことをしたのは誰?」は中学教師が複数の生徒をグルーミングする内容で、懐柔するまでの手口が詳細に描かれている。学校が漫画の舞台となっているため、子どもたちは関心や当事者意識を持ちやすい。
性暴力やグルーミングへの社会的な認知は少しずつ広がっている。しかし、性加害者は目的を達成るするために、次々と巧妙な手口を考える。
斉藤さんは「性犯罪の初犯を防ぐために包括的な性教育は非常に大事ですが、それだけでは不十分です。性暴力の問題に関わる人は知識や情報をアップデートしないと、加害者がどんな世界を見ているのか分かりません」と話す。家庭や学校での包括的な性教育に加えて、親子間のコミュニケーションや性暴力を起こしにくい環境デザインなど複合的なアプローチが必要となる。
(間 淳/Jun Aida)








