2026/06/23
すぐに売り切れるミカンジュースや梅シロップ 利益以上の意義と役割 加工品をつくるワケ
■熱海市の農園「たからのはたけ」が製造 ジュースやゼリーが人気
素材がよいので、加工しても自然とおいしくなる。熱海市の観光農園「たからのはたけ」では、ミカンジュースやゼリー、梅シロップといった加工品も人気を集めている。決して収益性の高い事業ではないが、商品の製造・販売を続ける理由がある。
【写真で見る】「たからのはたけ」を運営する夫婦は異色の経歴 いくつものハードルを乗り越えて農家に転身
説田さん夫妻が運営する「たからのはたけ」では、ミカンやアボカドをはじめ、レモンやプラムなど多様な農作物を栽培している。訪れる人たちは年間を通じて収穫を体験したり、花を見たりする楽しみがある。
農園を訪問するほかにも、愛情いっぱいに育てられた鮮度抜群の農作物を使った加工品を楽しみにするファンも多い。水を一切使わない正真正銘の100%ミカンジュースやミカンゼリーは、販売するとすぐに売り切れるほど、リピーターは心待ちにしている。
今の季節は、梅シロップがおすすめだという。炭酸で割ったり、かき氷にかけたりする定番に加えて、紅茶に加えると香りが立つ。
梅シロップは一般的に、梅を砂糖で煮てシロップにしている。しかし、たからのはたけは昔ながらの製法にこだわる。農園で取れた梅と氷砂糖やきび砂糖を何層にも重ね、半年から1年かけて温度と湿度を一定に保った小屋でじっくりと漬ける。水を入れずに、梅からジュワーと出るシロップだけを瓶詰めしている。時間と手間はかかるが、妻の有佳さんは「梅を栽培する農家だからこそ、つくることができるシロップです」と自信を見せる。


梅を使った加工品も人気
■無駄をなくす加工品の意義 利益は少なくても継続
たからのはたけで販売する加工品は、平均よりも価格が高い。ただ、その価格には根拠や理由がある。夫の慶樹さんが説明する。
「ミカンジュースは典型ですが、加工品だから品質を落とすのではなく、そのまま食べてもおいしいミカンを使っています。周りの農家の方々のミカンも相場より高く買い取ってジュースにしています。それは、見た目は不格好でも、味は確かなミカンにふさわしい価値を付けたいからです」
たからのはたけの加工品は大量生産できない。使用する農作物を厳選していることに加え、作業が全て手作業のためだ。
実は、加工品の販売は農園の利益として、ほとんど残らないという。それでも、製造・販売を続ける理由があると慶樹さんが明かす。
「加工で一番大事なのは、無駄をなくすことです。例えば、梅がたくさん収穫できたとしても、ほしい人たちとのタイミングが合わなければ、行き先がなくなってしまいます。梅は2日置くだけで、味も見た目も落ちてしまいますから。そうなった時、自分たちのところで加工できれば、梅をおいしいまま生かせるわけです。私たちが買い取ることで、周りの農家の方々の力にもなれます」

二人三脚で「たからのはたけ」を運営する慶樹さんと有佳さん夫婦
■地元の雇用も創出 ローカルゼブラの役割と責任
天候によって浮き沈みが避けられない農家にとって、加工品は収入の安定にもつながる。そして、最大の意義は「雇用の創出」にある。有佳さんが語る。
「赤字にならない限り、加工は続けるつもりです。私たちは、ローカルゼブラを掲げています。地元に雇用を創出できる事業を、しっかりと1本つくっていきたいと考えています」
ローカルゼブラとは事業を通じて地域の課題解決を図り、社会に良い変化を創出しながら収益を確保する企業を指す。たからのはたけでは、地元の主婦や高校生がアルバイトとして加工に携わっている。事業として大きな利益にはつながらなくても、農家の売上や雇用の創出で地元に貢献している。
たからのはたけが手がける商品は、地域で働く人や購入する人を幸せにする。有佳さんは「アルバイトの方々は楽しそうですし、商品を心待ちにしているリピーターさんも多いので、私たちのやりがいも大きいです」と話す。素材のおいしさが凝縮された加工品には、説田夫妻の思いも詰まっている。
(間 淳/Jun Aida)








