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2022/11/23

練習は1時間半×週3日 部活動改革のヒントとなる全国大会常連のラグビー部

短時間練習でも全国大会常連の静岡聖光学院ラグビー部

■静岡市の静岡聖光学院高ラグビー部 花園に7度出場

2日間にわたり、静岡市の静岡聖光学院高で開催されていた「部活動サミット」が終了した。教員の働き方改革で部活動の在り方が劇的に変わろうとしている中、聖光学院の部活は2歩も3歩も先を行き、全国各地の学校が視察に訪れている。特にラグビー部は県内屈指の強豪。練習時間は1時間半で、活動は週3日と限られた時間で、なぜ全国大会に出場できるのか。強さの秘密に迫る。

 

静岡市駿河区にある聖光学院高校。1972年に開校した中高一貫の私立高校で、当時から全ての部活は火、木、土の週3回に限られている。しかも、練習時間は1時間半で、11月から1月の冬季期間は1時間に短縮される。

 

部活の常識を覆す“超短期集中”の練習で、特に結果を出しているのがラグビー部だ。13日の全国高校ラグビー静岡県大会決勝では東海大静岡翔洋に敗れ、2年連続の花園は逃したものの、昨年は全国の舞台で白星を挙げている。

 

土日は朝から夕方まで、平日もほぼ毎日練習するチームが大半を占める中、なぜ聖光学院は静岡県の頂点に立ち、全国大会でも勝利できるのか。昨年まで監督に座り、現在はラグビー部GMと部活動統括を務める奥村祥平さんは、こう話す。

 

「他の学校のように部活の時間が毎日3時間あったとすると、その3時間をどう埋めようか考えると思います。枠を埋めようとすると練習が細かくなるのに対し、時間が限られると、やるべきことに優先順位を付けて練習するようになります」

ラグビー部に限らず全ての部活が1時間半で週3回

■「練習日」と「練習日以外」を明確に区別 

ラグビーの名門、福岡の東福岡高でラグビーをしていた奥村さんは、2006年に聖光学院で教員となった。それまでは、できるだけ多くの時間を使って量をこなす練習が技術向上につながると思っていた。

 

しかし、聖光学院の部活は週3回、計4時間半しかない。全国大会常連のラグビー部も例外ではないため、考え方を根本的に改める必要があった。

 

求められるのは、効率的、効果的な練習。当時監督だった星野明宏さん(静岡聖光学院前校長、現東芝ブレイブルーパス東京プロデューサー)から多くを学んだ。

 

ラグビー部の強さには当然、理由や根拠がある。メニューは「練習日にやること」と「練習日以外にやること」を明確に分けている。

 

例えば、ランニングや筋力トレーニングは空いた時間に自宅などで1人でもできるため、「練習日以外」のメニューとなる。練習日には指導者やチームメートが必要な体をぶつけるコンタクトプレーや、コンタクトプレーを伴うコンビネーションの練習などをこなす。

 

奥村さんは理想の練習を「一石三鳥」と表現する。1つの練習で技術、スキル、体力の3つを強化するメニュー。理想通りの内容になれば、選手たちは1時間半の練習で頭、心、体がヘトヘトになるという。

 

練習メニューは5分、10分単位で区切られている。1つのメニューが終わると、5人前後のグループになって、課題と収穫を話し合って共有する。ミーティングやディスカッションが多いのは、チームの最大の特徴と言える。

ラグビー部GMで部活動統括を務める奥村祥平さん

■昼休みのミーティングが日課 相手の分析や練習の意図共有

部活の時間が限られているため、選手たちは昼休みのミーティングを日課にしている。映像を使って、グループディスカッションをする。その日の練習の意図を確認し、試合前は相手チームの分析もする。奥村さんは「ミーティング中に後ろの方で暇にする選手をつくらないことが大事です。控えメンバーも輪の中に入って、全員で考え方を共有しなければ、効果的な練習はできません」と説明する。

 

頭で理解していなければ、体で表現できない。だからこそ、選手たちは昼休みも練習中も脳を鍛える。そして、考え方を口にして、仲間と話し合うことで頭の中を整理している。

 

部活では、目的が勝利か育成かを問われるケースが多い。だが、奥村さんは「両方」と即答する。勝つことで得られる財産がある一方、勝利を求めすぎるのは間違いと指摘する。

 

「県大会の準決勝、決勝、さらには全国大会と勝ち進めば、お客さんがたくさんいる中でプレーできます。その高揚感は人生の財産です。ただ、勝利至上主義になると生徒の未来を壊してしまいます」

 

勝利至上主義に陥らないために重要になるのが「目標設定」。奥村さんは、手が届かない無理な目標を掲げたり、指導者が勝利を求めすぎたりすると指導が度を超えて、体罰やパワハラのリスクが高くなると考えている。

静岡聖光学院ラグビー部の部室。整理整頓の徹底もチームの特徴

■「部活は生徒を成長させる一部の要素」 課外活動や勉強の時間確保

「部活は生徒を成長させますが、一部の要素であって全てではありません。部活は、かけがえのない人生などと表現されるのは違和感があります。プロになるのは一握りですが、全員が大人になって社会に出て誰かを支えたり、お金を稼いだりしなければいけません。その準備をするのが学校で、部活以外の時間も大事になります」

 

聖光学院には部活が学校生活の一部であり、注力しすぎると人生を豊かにするチャンスを逸するという考え方が根底にある。生徒は部活がない曜日の放課後、課外活動や勉強の時間に充てている。

 

例えば、ラグビー部の生徒も地元の惣菜販売店と連携して商品を開発するプロジェクトのメンバーになったり、オンラインによる海外の学生と合同授業に参加したりする。部活の時間を制限することで生活に余白をつくり、個々の興味や可能性を広げる時間が確保されている。

 

練習時間の長さと、ラグビーの技術やチーム力は比例しない。聖光学院の部活は、他校の悩みを解決する糸口となる。

 

(間 淳/Jun Aida

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