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2023/03/11

勉強する意味を知る ネット、SNS時代を生きる 焼津市の中学校で情報の意図読み解く授業

焼津市立豊田中学校では国語の授業でメディア・リテラシーを学ぶ

■焼津市立豊田中学校 国語教師によるメディア・リテラシーの授業

静岡県焼津市の中学校で、生徒の生きる力へとつながる授業が行われている。国語教師による「メディア・リテラシー」の学習。インターネットやSNSの普及で情報過多の時代が加速する中、情報発信者の意図を読み解く目的がある。

 

マニュアルや常識には捉われない。焼津市の豊田中学校に勤務する国語の教師・石田智子さんは「メディア・リテラシー」をテーマにした授業を取り入れている。

 

2月28日、4人組に分かれてまとめた意見を各班が発表した。教科書は使わない。題材は1つの新聞記事だった。記事は小、中学生を対象にした作文コンクールの応募に関するもので、石田さんが作文を書くコツを解説している。記事には石田さんの写真が使われているが、その写真の部分に何を入れたら、より記事の内容が伝わるかを生徒たちが考えた。

 

石田さんの写真を1枚使うケースでも、どんな場面を切り取るのか、どんなポーズをしているのかで記事の見え方は変わる。内容の理解を助けるために、写真ではなく図や表を使う選択肢もある。

新聞記事の左上スペースにどんな写真や図表を入れるか各班で考える

■題材は新聞記事 1枚の写真や図表で印象変化

ある班は、作文の良い例と悪い例のポイントを図でまとめた。記事の目的は作文の応募を増やすことにあると捉え、図を使えば「作文が苦手な人にも分かりやすく伝えることで、作文を書いてみようと思ってもらえる」と説明した。石田さんが作文の書き方について説明している写真を掲載した場合を比較対象とし、「石田先生を知らない人も記事を読むので、写真は記事の補完にはならない」と主張した。

 

別の班は、作文を完成させるまでの手順をすごろくで示した。文章を読むことが苦手な人にとって新聞記事はハードルが高いため、視覚的に関心を引きやすく理解しやすい方法を選んだ。比較対象には原稿用紙の写真を挙げ「作文に関する記事だと伝える効果はあるが、写真では作文の書き方が分からない」と説明した。

 

石田さんは、この授業を通じて情報の発信者には必ず意図があることを伝えようとしている。1枚の写真や1つの図表で、記事のイメージは大きく変わる。生徒たちは情報を発信する立場を経験することで、発信者の考え方も受信者の捉え方も同時に学べる。

 

世の中にあふれている情報には意図がある。メディアの情報を読み解く力はメディア・リテラシーと呼ばれ、内容を鵜呑みにしない意識や能力が必要になる。インターネットが日常の時代に生まれた中学生は、20年前と比べて情報に触れる機会は圧倒的に多い。

 

さらに、SNSの普及によって情報を受けるだけではなく、誰でも発信できる時代になっている。石田さんは「判断する力や経験が十分ではない中学生だからこそ、情報の発信者には意図や思惑があると知っておく必要があります」と話す。

10年ほど前から広告を使ってメディア・リテラシーを学ぶ授業をしている国語教師の石田さん

■生徒が学びを生かす授業 きっかけは「出会い系カフェ問題」

石田さんがメディア・リテラシーの重要性を感じて授業に取り入れたのは10年前だった。当時は出会い系カフェが流行し、犯罪の温床になっていた。静岡県内でも表向きは女性無料の漫画喫茶が、実態は出会い系カフェという店があり、後に児童福祉法違反の疑いで摘発された。

 

この店には女性向けと男性向けの広告が存在していた。そして、その広告を使って意図を考える授業が始まりだった。最近では、広告は紙媒体からインターネットへと移行。ネット上でモデルのアルバイトを募集する広告を見て応募した若者が、アダルトビデオへの出演を強要される問題も発生している。

 

中学校の国語の教科書にはメディア・リテラシーに関する単元がある。石田さんは教科書の内容を学びながら、社会で生きる知識を身に付けられる授業にしようと考えた。用意したのは、条件や文言が異なる複数の求人広告。それぞれの広告を比較すると、求人を出す側の狙いが見えてくる。石田さんは言う。

 

「知識を学ぶだけの授業は今の時代に求められていません。大切なのは、教科書での学びを生かす力、社会との関わりをイメージして主体的に学習する力です」

 

何のために勉強をしているのか。多くの中学生が疑問を抱きながら日々、授業を受けて、教科書を読んでいるだろう。発信された情報をそのまま受け取らずに判断し、危険を察知するには知識が不可欠。「何のため?」と感じてしまいがちな授業には、社会で生きる術が詰まっている。

 

(間 淳/Jun Aida

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