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2023/07/12

中傷や噂…金メダル獲得で2年間の苦悩 解決のきっかけはパパラッチに追われるハリウッド女優の姿

三島市立佐野小学校で講演した岩崎恭子さん

■バルセロナ五輪金メダリスト 岩崎恭子さんが特別授業

偉業達成で得た財産も直面した苦労も、惜しみなく子どもたちに披露した。沼津市出身でバルセロナ五輪の競泳金メダリスト、岩崎恭子さんが三島市の佐野小学校で講演。金メダルを獲得後に誹謗中傷や根拠のない噂に苦しんだ時期もあったが、米国遠征中に目撃したハリウッド女優の姿が悩みを解消するきっかけになったという。

 

静岡県教育委員会では昨年度から、一流アスリートとの交流を通して児童・生徒にスポーツの大切さを伝える「静岡県オリンピック・パラリンピックレガシー教育推進事業」を進めている。7月12日に講師を務めたのは、1992年バルセロナ五輪の女子200メートル平泳ぎで金メダルを手にした岩崎恭子さんだった。

 

5歳の時に3歳年上の姉の影響で水泳を始めた岩崎さんは、14歳で出場したバルセロナ五輪で当時日本人最年少となる金メダリストに輝いた。姉に追いつきたい気持ちと記録が伸びる楽しさから水泳に没頭していったという。佐野小学校の5、6年生を前に、ここ一番で力を発揮するために大事にしていたことを伝えた。

 

「大切なのは自信と素直さ。これだけ練習をしたという自分に対する自信と、人の話に耳を傾ける素直さです。人のせい、もののせいにしないことを心掛けていました」

岩崎さんが披露したバルセロナ五輪の金メダルを子どもたちも触って感動

■五輪後に大フィーバー 根拠ない噂や誹謗中傷に悩む日々

岩崎さんは水泳を通して、競技力の向上以上のものを学んだと児童たちに話した。大会や遠征、さらには現役引退後の仕事で日本中を回り、世界各国を訪れたことで、地理に興味を持った。

 

海外に行くと、設備の整ったプールで練習できる日本がいかに恵まれているのかを痛感した。日本では当たり前のように口にしていた水道水が、海外では腹痛を引き起こすリスクがあることも知った。

 

選手村の滞在期間は国によって違いがあった。発展途上国の選手は自国に戻るより、選手村での生活が快適なためだった。岩崎さんは子どもたちに「なぜなんだろうと考えて、調べる習慣を身に付けてほしい」と視野を広げる大切さを訴えた。

 

金メダル獲得後の苦労も明かした。14歳の女子中学生の快挙は当時、日本中で大きな話題となった。ただ、同世代の中学生や高校生の中には、嫉妬する人が少なくなかった。根拠ない噂話が広がり、地元の沼津を歩いていると「実物はかわいくない」と岩崎さんに聞こえる声で話す人もいた。

 

「言い返したい気持ちはありましたが、余計に悪く言われるかもしれないので我慢しました。でも、何で私が耐えなければいけないんだろうと思っていました。2年間くらい悩みました。その頃の2年間は、結構長く感じましたね」

講演終了後、児童にサインを求められる岩崎さん

■米国遠征中に目撃 パパラッチに追われる女優の姿に心境変化

この期間、岩崎さんはモチベーションが上がらず、タイムも伸びなかった。目標にしていた姉を追いかけ、タイムを更新することに集中していた五輪前とは違い、練習を消化するだけの日々が続いた。周囲の目を恐れ、目立たないように普段から下を向いて歩いていたという。

 

悩みを解消するきっかけとなったのは、日本代表の遠征メンバーに選ばれて米国へ行った時だった。「日本違って自分を知っている人はいないので、気持ちが楽になりました」。岩崎さんは下を向かずに街を歩いた。人々の表情が見える当たり前の光景に安心感を覚えた。

 

練習が休みの日、ハリウッドを訪れると衝撃的な場面を目撃した。パパラッチに囲まれた女優が堂々と歩く姿だった。岩崎さんは「自分は悪いことをしていないのだから、下を向いて歩く必要はないと思いました。知らない人に何か言われても気にしなくて良いと考えを切り替えました」と語った。

 

金メダル獲得によって得た財産も直面した苦労も、今は貴重な経験と捉えている。岩崎さんは児童たちに向け、最後に自身が好きな言葉を贈った。

 

■小学生にメッセージ 「幸せはいつも自分の心が決める」

「相田みつをさんという詩人の日めくりカレンダーで、こんな言葉がありました。幸せはいつも自分の心が決める。私は、この言葉を大事にしています」

 

思春期は特に、周囲の価値観に流されやすい。同調を求められる状況も少なくない。14歳で金メダリストになった岩崎さんの経験談や言葉は、思春期を迎える子どもたちの金言となった。

 

(間 淳/Jun Aida

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