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2023/07/22

獣医師が運営する保護猫カフェ 猫の未来を考えて譲渡にハードル サポートは継続的に

猫宿町を運営する獣医師の大石さん

■静岡市の「猫宿町」 獣医師の大石将司さんが運営

救える猫の命を増やすため、ちゅうちょする理由はなかった。静岡県ゆかりの人たちが歩んできた人生をたどる特集「My Life」。第12回は静岡市葵区で譲渡型の猫カフェ「猫宿町」を運営する獣医師の大石将司さん。かわいいと感じる気持ちだけで飼えるほど動物との生活は簡単ではないことから、猫の譲渡にはハードルを設けている。

 

静岡駅から徒歩15分。ここ数年、新しい店が次々とオープンするエリア「人宿町」に、大石さんが運営する猫カフェ「猫宿町」がある。今年2月でオープンから3年が経った。

 

畳や囲炉裏といった和をコンセプトとした、猫も人間も居心地の良い店内が人気の理由だが、最大の特徴は「譲渡型」の猫カフェであるところ。保護された猫の健康状態を整え、ある程度、人に慣れた段階で来店客と触れ合いを持つ。この仕組みを可能にするのは、大石さんが獣医師である面が大きい。

 

静岡市出身の大石さんは2002年に大学を卒業し、京都府にある大規模な動物病院で5年間働いた。その後、静岡市で「あん動物病院」を開業し、2020年2月から「猫宿町」を始めた。

居心地が良さそうに猫宿町で過ごす猫たち

■「医者になろうと思ったことはない。獣医になりたかった」

あん動物病院で受け入れた保護猫を猫宿町へ連れてくるまでには数週間から1か月ほどかかる。検査したり、ワクチンを打ったりしてから、人慣れやトイレトレーニングの期間が必要なためだ。大石さんが問題ないと判断すると、猫宿町のスタッフに猫たちを任せている。猫宿町に来てからも、猫たちは先住猫や来店客に慣れるように段階を踏んでから自由にさせている。

 

大石さんは子どもの頃から動物に囲まれて生活していた。両親が動物好きだったため、自宅では犬やアヒル、カメやカエルなどを飼っていた。「不思議なことに人間のお医者さんになろうと思ったことは1回もないんです。医者ではなく、獣医になりたかった」。高校生になった頃には進路を明確に決めていた。

 

猫宿町を始めたきっかけは、保護猫活動をする地元ボランティア団体が大石さんの動物病院を利用していて、その活動を間近で見ていたからだった。

 

「ボランティアさんの大変さを間近で見る中で大きな負担となっているものの1つが医療費。猫の保護活動には検査やワクチン、病気の治療と医療に関する費用が結構なウエイトを占めます。譲渡型の猫カフェを動物病院が運営するという仕組み・意義はとても理にかなっていると感じました」

大石さんは里親希望者にトライアル期間を設けている

■譲渡前にトライアル期間 費用の負担も求めるわけは?

また、静岡市は静岡市獣医師会と連携して、野良猫の不妊手術をして元の場所に戻すという通称「TNR」活動を実施して、望まない出産を減らす事業をおこなっている。こういった活動には獣医師の協力が不可欠で、大石さんも一翼を担っていた。産ませないための不妊手術事業と、すでに生まれた命の保護活動。どちらも並行しておこなわなければ不幸な猫を減らすことはできない。

 

もちろん、保護された全ての猫を受け入れることはできない。病院の診療業務に支障なく、猫宿町で猫たちが快適に暮らせるように、20匹程度を上限に対応している。大石さんは「子猫を希望する里親さんたちが多いので、大人の猫は残ってしまいます。そうすると、引き受けられる猫の数も少なくなってしまうので、大人の猫を希望する里親さんが現れてくれるとありがたいです」と語る。上限に空きが出たら受け入れる形で、多い年は年間70匹ほどの猫を譲渡している。

 

里親は常時募集している。ただ、誰にでも猫を譲渡するわけではない。猫宿町では条件やトライアル期間を設けている。例えば、里親には猫の検査やワクチン、マイクロチップの費用を負担してもらう。大石さんは、その理由を説明する。

 

「猫を飼うにはお金がかかります。準備にかかる費用を払えない人は、その後の費用を負担できずに劣悪な環境で飼育したり、飼育を放棄したりする可能性があります。ペットショップと違って(保護猫なら)無料で猫が飼えるという感覚の人には集まってきてほしくありません」

 

里親を希望するに人は、猫を飼うお試し期間「トライアル」を求めている。期間は2週間が基本で、1か月程度に延長するケースもある。自宅で猫を飼うとどんな生活になるのか、どんな大変さがあるのか。イメージではなく、実際に生活することで猫を迎え入れられるのか考えられる。猫宿町側も、猫を譲渡できる環境なのか判断する材料となる。

 

■譲渡後は動物病院でフォロー 3年間はワクチン半額

トライアル開始前には、猫を迎え入れる部屋の写真を送ってもらい、猫宿町のスタッフが猫にとって危ない物や脱走の恐れがある場所などを指摘する。留守中に猫を入れておくケージやオススメの餌なども事前に説明する。初めて猫を飼う人はトライアル前に猫宿町を訪れれば、猫の習性や動きの速さなどを把握できる。

 

猫宿町では譲渡に関する審査基準は公表せず、総合的に判断している。オープンから3年間で、里親の数は約170人に上る。大石さんは「正式譲渡までトライアル中も連絡を取り合って、時間や手間をかけています。里親さんの人数を目標にはしていませんが、良い循環ができてきたと感じています」と話す。

 

里親を見つけて終わりではないところにも、猫宿町の特徴がある。大石さんの動物病院では、猫の譲渡から3年間はワクチンを半額にしている。

 

「譲渡した後、猫たちが元気に過ごせているか見たい気持ちもあって、うちの病院を利用してもらえたらと思っています。他の病院を主治医にしている里親さんでも、定期的に猫の写真を送ってくださる方もいます」

 

ペットとの生活は、楽しい時間ばかりではない。思い通りにいかないこともある。それでも、一緒に過ごしたいと責任を持てる里親だけが猫を幸せにできる。「猫宿町を長く続けられればその存在も周知され、保護猫についてももっとたくさんの皆さんに知ってもらえます。事業の継続が一番の目標です」と大石さん。遠くない将来、猫宿町が人宿町の象徴になっているかもしれない。

 

(間 淳/Jun Aida

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