生活に新しい一色
一歩踏み出す生き方
静岡のニュース・情報サイト

検索

情報募集

menu

2023/08/12

部活は1時間半で週3回 中学の強豪ラグビー部 少年野球のカリスマに“弟子入り”

多賀少年野球クラブの辻監督(中央)を訪問した静岡聖光学院のラグビー部員と剣道部員(静岡聖光学院提供)

■中高一貫校の静岡聖光学院 高校ラグビー部は花園出場

限られた時間を有効活用して強いチームをつくるには、どうしたら良いのか。静岡市にある静岡聖光学院中学のラグビー部が選んだのは、滋賀県にある少年野球チームだった。カリスマ指導者の考え方や練習法は、競技やカテゴリーを超えた学びがあった。<剣道部編からの続き>

 

静岡市にある中高一貫校の静岡聖光学院は、中学も高校も部活動の時間が短いこととで知られている。活動は1時間半で、火、木、土曜日の週3回。その中で、高校のラグビー部は全国大会で勝利するなど結果を残している。

 

中学のラグビー部も県内トップクラスの力を持っている。今春の県大会では準優勝。ただ、決勝では静岡ブルーレヴズラグビースクールに大差をつけられた。

 

今秋の大会では頂点に立つ――。チーム目標を達成するため、主将の崎山湊太郎さん、大石真杜さん、福井才文さんの3人の中学3年生が向かったのは、人口7000人ほどの小さな町・滋賀県多賀町だった。崎山さんは「小学生と中学生、野球とラグビーといった違いはありますが、自分たちの課題を解決するには多賀少年野球クラブさんに行くのが一番だと思いました」と話す。

静岡聖光学院ラグビー部のキャプテンを務める崎山さん(奥)

■OBに楽天・則本投手 日本一3度の多賀少年野球クラブ見学

「多賀」と聞けば、少年野球界では広く知られている。日本一3度を成し遂げている多賀少年野球クラブ。楽天イーグルスでプレーする則本昂大投手が所属したチームとしても有名だ。

 

チームを率いるのは35年前に創設した辻正人監督。選手の自主性を重視した考える野球を打ち出し、毎年メンバーが入れ替わる少年野球チームで全国大会の常連となっている。監督やコーチがサインを出さない「ノーサイン=脳サイン」をはじめ、少年野球界の常識を次々と覆してきた。

 

少年野球では土日祝日に丸一日練習し、平日も夕方から練習するチームが一般的だが、多賀少年野球クラブは土日祝日の練習は半日、平日は週2日グラウンドを解放しているだけで指導はしていない。それでも、実績を積み上げている。部活の時間が他のチームより大幅に少ない中で結果を求める静岡聖光学院ラグビー部にとって、理想的なチームと言える。

 

静岡聖光学院ラグビー部は1時間半の練習で、ウォーミングアップ、基礎となるスキル練習、ゲーム形式の実戦練習をこなす。ゲーム形式の練習では、直近の試合などで見えた課題に取り組むメニューを意識している。

 

このスキル練習とゲーム形式の比率をめぐり、ラグビー部では部員の間で意見が分かれているという。基礎と実戦、どちらが大事なのか。多賀少年野球クラブの辻監督に練習見学を依頼したのは、その答えを出すヒントを得るためだった。

多賀少年野球クラブの練習を見学した大石さん

 

■基礎と実戦のバランス 多賀少年野球クラブの方針参考に

多賀少年野球クラブには、年少の園児から小学6年生まで110人以上が所属する。辻監督は園児や野球未経験者には基本を繰り返し教えている。ただ、同じ練習メニューでは子どもたちが飽きてしまうため、遊びの要素を加えて楽しませる。崎山さんは辻監督が持つ豊富な指導の引き出しに驚きながら、チームが今後進むべき方向性を見出した。

 

「園児や低学年で身に付けた基礎力があるからこそ、高学年の実戦的な練習が生きていると感じました。自分たちのチームも中学1、2年で基礎は身に付いているので、中学3年になったらゲーム形式中心のメニューの方がチーム力は上がると思いました」

 

崎山さんと一緒に多賀少年野球クラブを訪れた大石真杜さんも基礎と実戦、どちらに比重を置くべきかを辻監督から学ぼうとしていた。そして、「ゲーム形式も大事ですが、基礎も欠かせません。ゲーム形式の練習の中に基礎を強化する要素を盛り込むのが良いと思いました」と話した。

 

もう1つ、2人は自分たちのラグビー部と多賀少年野球クラブの大きな違いを感じていた。大石さんが言う。

 

「多賀少年野球クラブは、どの選手も自然と声が出て、みんなで練習を盛り上げて楽しんでいる雰囲気でした。自分たちは声を出す人と出さない人の差がありますし、チームメートに対して声を出すように指摘するケースが少なくありません」

秋の県大会で優勝を目指す静岡聖光学院中学ラグビー部

■「無駄な声かけはエネルギーの無駄」 声出しは3種類

キャプテンの崎山さんも、チーム内の意思疎通に課題を感じている。ラグビー部には中学3年生にはキャプテンと副キャプテンが2人ずつ、中学2年生にはキャプテンが3人いる。毎週月曜日、その7人のリーダー陣でミーティングをして1週間の練習メニューを考えたり、チームが取り組むべきテーマを話し合ったりする。ただ、リーダー陣でまとめた考えがチームに浸透していない時があるという。

 

「新型コロナの影響で長期休み期間の合宿ができなかったこともあり、チーム全体で話し合う時間が十分にありませんでした。まだ、チームが1つになれていないという感覚があります。多賀少年野球クラブのようにチームの方向性が定まって、全員が納得した上で練習しなければ、練習の効果が薄れてしまうと思っています」

 

声の出し方やかけ方も多賀少年野球クラブから学ぶところがあった。少年野球は「バッチコイ!」、「ストライクを入れていけ!」など、1球1球声を出すイメージが強いが、辻監督は意味のない声出しを選手に求めていない。

 

声を出す目的に挙げるのは、時系列で「準備・予測」、「指示」、「反省」の3つしかない。「準備・予測」は今の場面で何を優先するのかなどを選手間で共有する。「指示」は自分の意思やチームメートに求める動きを伝える。「反省」はミスが出た時にチームで共有する。

 

崎山さんは辻監督から「無駄な声はエネルギーを使ってしまうだけ」とアドバイスを受けた。そして、自分たちの日頃の練習を振り返り、声を出すことが目的になっている場面があると気付いた。

 

ラグビー部は今秋の県大会で、春に大敗した静岡ブルーレヴズを倒しての優勝を思い描いている。崎山さんも大石さんも「自分たちは、チームが1つになれば必ず優勝できる力があると思っています」と声をそろえる。多賀少年野球クラブの練習見学で得た財産をチームに還元し、静岡県の頂点に立つ。

 

(間 淳/Jun Aida

関連記事