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2023/09/11

周囲は失笑…“全国ワースト”からのスタート 開園11年目で地元から感謝状

今月、河津町から感謝状を授与された白輪さん

■河津町の「iZoo」 前身の水族館は集客数“全国ワースト”

周囲から失笑されて始めた事業は11年目を迎え、地元を代表する施設にまでなった。静岡県河津町の体感型動物園「iZoo」の白輪剛史園長の連載、今回のテーマはiZoo開園。買収した前身のカメの水族館は当時の集客数が“全国ワースト”だったが、白輪さんは「失敗するとは、これっぽっちも思わなかった」と話す。

 

iZooの前身はカメの水族館でした。25年以上続いていた水族館で、ピーク時は年間28万人が訪れていました、しかし、私が運営を引き継いだ2012年4月時点では年間の来場者が1万9000人で、日本動物園水族館協会に属する施設の中で全国ワースト。地元の住民が閉館していると思うほどの施設でした。

 

私は買収して、カメを含めた爬虫類の動物園にしようと考えました。そのことを周りに伝えると失笑する人ばかり。周りからは「何で爬虫類?」と言われ、長く続くはずがないと思われていました。

 

自分としては失敗するとは、これっぽっちも考えていませんでした。どんな事業も失敗するイメージは持ちませんし、失敗すると感じたらやりません。結果として失敗したら仕方ないですが、その時は自分の考えに時代がついてきていないと捉えています。後悔することはないですね。

 

■経営引継ぎで3つの取り組み 来園者3倍に増加

2012年4月下旬にカメの水族館を引き継ぎました。このタイミングから、うちの会社が経営を始めました。その時に私が取り組んだのは3つだけです。1つ目は木の伐採。木の存在が道路から水族館の駐車場を見えなくしていたので、施設が見えるように整備しました。

 

2つ目は閉館を知らせるCMです。2012年12月15日にiZooを開園しようと計画していたので、準備期間を考えて8月20日をカメの水族館の閉館日に設定しました。サヨナライベントと銘打って、30万円分のテレビCMを打ちました。3つ目はホームページのリニューアルです。閉館を伝える内容に変更しました。

 

25年以上続いていた水族館だったので、オープン当初0歳だった赤ちゃんは25歳、10歳だった子どもは35歳になっています。一度訪れた人たちには何かしらの思い出があります。水族館自体には手を加えず、懐かしさを味わってもらおうと考えました。

 

サヨナライベント初日、来館者の数が衝撃でした。わずか7人。まだCMが流れる前だったこともありましたが、この時ばかりは「まずい買い物をしたかもしれない」と思いました。それでも、ゴールデンウィークになればお客さんが来るだろうと楽観し、実際に連休期間は1日350人くらい入りました。

 

そして、運営を引き継いでから8月20日の閉館日までに2万人近くが来館しました。4か月弱で前年1年分の人数に到達したわけです。これならiZooも何とかなるだろうと感じました。

静岡県民を中心に広く知られているiZooのロゴ

■動物園未経験にも不安なし 「誰もがどこかで初めて経験」

それから、iZooにお客さんを呼べると確信していた理由には、レプタイルズショーの成功もあります。レプタイルズショーは爬虫類の展示即売会で、1年目は2日間で1800人の来場者でしたが、今は2万人まで増えています。爬虫類の動物園は需要があると手応えを感じていました。実際、iZooは1年目から来園者が10万人を超えています。

 

iZooを始める頃は「白輪さんは動物園を運営した経験も、動物園で働いた経験もないのに大丈夫ですか?」とよく言われました。経験がない人はできないといいう考え方です。でも、考えてみてください。動物園の飼育員は、生まれた時から飼育員ではありません。誰もが、どこかのタイミングで初めて経験します。だから、私は未経験だったことに何の不安もありませんでした。

 

園児の時から爬虫類が大好きで、小学生の頃は動物園の園長になりたいと思っていました。ただ、それは子どもの夢です。高校生の頃に爬虫類の卸売業を始めてからは、もし自分が動物園の仕事に携われたら、どんな施設にするかイメージを膨らませていましたが、現実味はありませんでした。

 

そんな中で、カメの水族館を買収できる機会が訪れたわけです。買わない選択肢はありませんでした。自分の好きな動物園をつくる夢が叶う。うれしかったですね。

 

■iZoo開園11年目 地元・河津町から感謝状

実は、買収を決めた翌日に手付金を振り込んでいます。喜ぶ私とは対照的に、従業員はあぜんとしていました。経理担当者にカメの水族館を買ったと伝えると、「何匹買ったんですか?」と返ってきました。私が「そうではなくて、生き物も土地も全て買った。従業員も漏れなくついてくる」と答えると、事態が理解できない様子でした。

 

従業員たちは買収に戸惑いや驚きを隠せませんでしたが、iZooというネーミングの評判は悪くありませんでした。爬虫類の名前を付けたり、ジュラシック何とかという横文字の名前を考えたりしましたが、どれもしっくりこなくて、最終的にたどり着いたのが伊豆の動物園を意味するiZooでした。

 

iZooの開園から11年目を迎え、今月には河津町から観光誘客に寄与したとして感謝状をいただきました。ありがたいことですし、失笑されてスタートしたiZooが伊豆地域に少しは認められてうれしさを感じています。

 

<プロフィール>

白輪剛史(しらわ・つよし)。1969年生まれ、静岡市出身。静岡農業高校卒業。幼少期から爬虫類に興味を持ち、1995年に動物卸商「有限会社レップジャパン」を設立。2002年から国内最大級の爬虫類イベント「ジャパンレプタイルズショ―」を開催。2012年に体感型動物園iZooをオープンして園長に就任。

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