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2022/08/27

サツマイモ収穫期に焼き芋を販売しないワケ 明治創業老舗の味へのこだわり

明治時代から続く「大やきいも」の焼き芋

■静岡市の「大やきいも」は7月から3カ月間、焼き芋の販売休止

サツマイモの収穫期なのに、なぜ焼きいもを販売していないの?疑問を持った多くの人も、店主の説明と焼きいもの味を知れば納得する。静岡県静岡市で店を構えて110年を超える「大やきいも」では、焼きいもの販売を7月から約3カ月休止する。サツマイモの収穫期に名物を店頭で出さないのは、味への強いこだわりからだった。

 

静岡市葵区にある「大やきいも」は明治時代に創業し、店名にもなっている名物の焼きいもを販売して110年以上が経つ。半分に割ると甘い香りのする湯気が立ち、口に入れればホクホクで優しい甘さが広がる。評判はメディアやSNSを中心に広がり、土日になると静岡県外から観光客が訪れる。

 

ところが、お目当ての焼きいもを口にできず、店内で呆然とする人がいるという。焼きいものシーズンを勘違いされているためだ。4代目店主の中村修身さんは「サツマイモの収穫時期と、焼きいもシーズンにはズレがあります」と説明する。「大やきいも」では、大学いもや静岡おでんなどは年中販売しているが、焼きいもは7月下旬から約3カ月間、休止している。中村さんは、こう続ける。

 

「サツマイモは熟成させないと、焼きいもに必要な甘さが出ません。うちの焼きいもはサツマイモと塩しか使っていないので、収穫したばかりのものでは硬いし甘さが足りないんです。お客さんには、おいしい焼きいもを提供するために販売できない時期があると説明しています」

継承されている焼き芋を作る大釜

■収穫したばかりのサツマイモは甘み不足 焼き芋にな熟成期間が必要

サツマイモは811月ごろに収穫期を迎える。しかし、収穫したばかりのサツマイモは、ミツをかけて食べる大学いもと違って、焼きいもに使うには甘みが足りない。貯蔵、熟成させて初めて、焼きいもにふさわしいサツマイモとなる。つまり、サツマイモの収穫期と焼きいものシーズンには、“時差”があるのだ。もちろん、休止期間を設けずに1年を通じて提供すること自体は可能だが、味が落ちる焼きいもを店頭に並べる選択肢は中村さんにない。

 

「店に来たお客さんの中には『サツマイモが収穫されているのに、何で焼きいもは売っていないんだ』とがっかりされる人もいます。せっかく来ていただいたお客さんに『焼きいもの時期ではないので』と伝えるのは心苦しいです。ただ、サツマイモの甘さを十分に引き出した本当においしい焼きいもを食べていただきたいと思っています」

 

販売休止期間を知らず、焼きいもを目当てに来た人は落胆する。だが、中村さんは味が落ちると分かっていながら焼きいもを販売する方が、結果的にお客を裏切ることになると考えている。大釜でサツマイモを焼く作業は想像以上の重労働。サツマイモを釜に並べてから完成させるまでの1時間、仕上がりを計算しながら暑さとも戦う。

 

自分への妥協を許さない中村さんの工程は、伝統の味、これまでで最高の焼きいもの味をお客に知ってもらうため。実際に焼きいもを口にした時、提供時期が限定されている理由にうなずくだろう。

 

(間 淳/Jun Aida

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