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2023/02/06

台風対応の検証で賛否 静岡市長が記者会見で集中砲火 市民からはマスコミへの皮肉も

台風15号の対応に関する中間報告を発表した静岡市

■中間報告に市長の検証項目なし 複数の記者が問題視

組織トップの判断を検証する必要はないのか、政令市で議論が巻き起こっている。静岡市は先日、昨年9月に被害が出た台風15号の対応を検証する中間報告書を発表した。その中で、最終責任を負う田辺信宏市長の行動を検証しないことを地元メディアが痛烈批判。市民にもライブ配信されている定例記者会見で、田辺市長は集中砲火を浴びた。市民の間では賛否両論が分かれ、地元メディアへの皮肉も上がっている。

 

昨年9月の台風15号で、静岡市は清水区を中心に被害を受けた。特に大規模な断水が市民生活に影響し、行政の初動や田辺市長の判断について批判の声は小さくなかった。

 

市は台風15号の対応を検証し、先月31日に中間報告書を公表した。検証項目は市民への情報発信や災害ごみへの対応など11項目に上ったが、災害対策本部の本部長を務める田辺市長の行動が入っていなかった。これを問題視する記者が、翌日の市長定例会見で田辺市長に嚙みついた。ゴングは、この質問だった。

 

「台風15号の中間報告で、市長の行動について触れられたところが何もなかったことに疑問を持たれた方が多かったようです。被害発生翌日、視察前に敬老会や地域のお祭りに参加されたことも含めて、市長ご自身がどう振り返られているのかお聞かせください」

 

田辺市長は清水区で断水が発生している中、予定していた敬老会や打ち上げ花火大会に出席している。静岡市では被害状況にばらつきがあり、台風が去った後は普段通りの生活をしている地域は多かった。田辺市長は断水の原因となっている取水口への視察前に、公務の敬老会などに顔を出したという。記者の質問に、こう答えた。

 

「もちろん、今回の災害対応の最終責任は本部長である市長の私にあります。そして、今回の検証の目的は災害対策本部がどう機能したのか、何が上手くいって、何が上手くいかなかったのかを明らかにして、今後の防災や減災につなげていくことにあります。一連の対応の中で、私はその時々で把握できていた情報をもとに判断してきました。その情報に不足があったことも含めて、私の責任だと振り返っています」

田辺市長は報告書で自身の判断を検証する必要はないと主張

■田辺市長の回答に納得できず 記者が繰り返し質問

記者は田辺市長の回答に納得できず、やり取りは以下のように続いた。

 

記者

「敬老会やお祭りへの参加は、適切な情報の報告を受けて認識をしていれば、あんなことはしなかったという反省があるということでしょうか?」

 

田辺市長

「それも1つあるかもしれません。しかし、私は別の大義で、あの場に寄りました。それが色んな市民の皆さんの感想になったのは、適切な行動だったかどうか今でも自問自答しています」

 

記者

「(台風15号から)もう4か月、5か月経ちますが、ご自身の行動が適切だったかどうか、まだご自分の中で結論が出ていないということでしょうか?」

 

田辺市長

「そうですね。とにかく興津川の取水口に行く途中で花火大会に寄った経路であります。3年ぶりの開催で、子どもたちにとって伝統行事が忘れられたら困るから今年は断行するんだという決断と聞いていました。実行委員会の皆さんも大変だったと思います。(清水区の)有度は災害の程度がひどかったところと軽微だったところが激しいので。実行委員会が開催した裏には、被害があった自治体から何で開催するんだと批判があったと報告を受けています。その中で、何を基準にして開催するのか、何を基準に市長がそこに行くのかは、それぞれの判断だと市民の皆さんにお伝えしたいと思います」

 

記者

「開催の是非は誰も問うていません。なぜ開催したのか声を大にして批判する声は聞いていないので認識はありませんでした。それよりも、まず市長の行動として適切だったと振り返ってらっしゃるのかをお聞かせいただきたいのですが」

 

田辺市長

「先ほど申し上げましたが、今でも自問自答しております」

 

■「何のための報告書」 記者が語気を強める場面も

さらに、別の記者が質問を続ける。

 

記者

「中間報告の中では組織がどう動いたかが検証対象であって、個人である市長は検証の対象外であると明言されていました。市長の今のお話等を聞くと、自問自答している部分もあるようなので、市長もヒアリングの対象として応じて、しっかりと検証することが必要なのではないかと思いますが、いかがですか?」

 

田辺市長

「職員の言う通りです。私自身は自問自答していますし、職員の皆さんに私の行動や判断をどう思ったか聞いています。私は最終的な政治的な責任、道義的な責任は負います。一方で、誰が市長になっても静岡市のこれからの災害対応力、危機管理能力を向上させなければいけません。行政の各所、どこが足りなかったのかをきちんと検証することが大事。これは切り離されるべきだと私は思います」

 

記者

「組織の中にいるのは人間。ヒューマンの部分に踏み込まないと、組織の検証にはならないと思います。庁内の人が遠慮して市長に話を聞かないことも考えられます。本部長である市長からチームに指示を与えて検証させるものだと思うので、個人からもヒアリングすべきではないでしょうか。最高責任者の私からもヒアリングをすべきとご指示を出されればいいと思いますが、いかがでしょうか?」

 

田辺市長

「それが報告書に記載されるべき性質ではないというのが私の考えであります」

 

記者

「何のための報告書だということになりますよ」

 

田辺市長

「どなたが市長になっても、静岡市が組織としてシステムとして、ヒューマンエラーも含めて検証されるべきものです。次の市長に災害対応能力、危機管理能力を向上させる1つの指針として報告書を残していきたいと思います」

 

■市民は賛否両論 市長問いただす記者への皮肉も

田辺市長は他の記者からも質問を受けたが、同じように回答した。すでに市の職員と何度も話し合い、厳しい意見も聞いているという。台風15号への市の対応は今後、市民アンケートが予定されている。その中で市長へのヒアリングを求める意見が上がっても、考えは変わらないと明言した。

 

静岡市が中間報告に田辺市長の行動を検証する項目がないことに、市民の意見は割れている。複数の記者が問いただしたように「最終決定権のある市長が検証対象になっていないのは違和感がある」、「川勝知事との連携、災害対策本部設置や視察のタイミングは市長に問題があると感じた。どんな事情や根拠からの判断なのか検証してほしい」という声があった。

 

一方、「市長が花火大会に行くと判断するくらいの危機意識だったのは、組織としての情報伝達に問題があると感じる。まずは、組織全体の対応をしっかりと検証すべき」、「4月に任期満了を迎えて次の市長選に出馬しない現職の責任を検証するのは時間の無駄。組織としての力を上げるために課題と対策を講じてほしい」など、市や田辺市長の説明に理解を示す意見もあった。

 

また、市長定例のライブ配信を見た市民の中には「市長に厳しく質問していた記者の方々には、自分の会社で不祥事や問題が起きた時も同じように、会社トップを糾弾できるのか注目したい」、「中間報告の内容を質問するというより、市長相手にマウントを取ることが目的に感じる場面があった。ジャーナリズムを語る人には、記者だからこそ得られる独自の情報や視点を期待したい」という声も上がった。

 

SHIZUOKA Life編集部)

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