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2023/08/05

性別の違和感は半数以上が「小学校入学前」 保育施設に求められる性の多様性

静岡市が園長を対象に行った性の多様性研修

■園長を対象に研修 静岡市が初めて実施

偏見や差別をなくすためには、小学校に入ってからでは遅い。静岡市が4日、市内のこども園や待機児童園の園長を対象にした「性の多様性研修」を初めて実施した。LGBTQといった性別に違和感を覚える時期は「小学校入学前」が過半数を占めていることから、保育施設の改革が求められている。

 

性の多様性に対する社会の関心や理解は変化しているものの、まだ当事者たちにとって十分とは言えない。専門家が指摘する課題の1つは「幼少期の教育」。岡山大病院ジェンダークリニックが性同一性障害で受診した1167人を対象にした調査によると、性別への違和感を覚えた時期は小学校入学前が56.6%に上っている。

 

こうした状況を踏まえて静岡市は「性の多様性研修」を行い、市内のこども園と待機児童の園長54人が参加した。性の多様性や性的少数者への知識を深め、園児や職員が過ごしやすい環境を整える狙いがある。研修の講師には、保育士の経験を持ち、多様性を考える保育士研究会「にじいろ保育の会」の発起人でもある中部大学非常勤講師の天野諭さんを招いた。

 

天野さんは「園児に性的なことは、まだ早いという大人の思い込みがある」と保育の現場の課題を指摘した。園児の段階では「男の子も女の子もなく、みんな一緒」、「性的マイノリティに関する相談を受けたら対応すれば良い」という考え方が根強いという。

研修で講師を務めた天野諭さん

■性同一性障害の悩み 周りに相談しない割合は約9割

しかし、実際には性同一性障害に直面する半数以上が小学校入学前に性別への違和感があり、9割近くが性別の違和感に関する悩みを誰にも打ち明けていない調査結果も出ている。つまり、園児からの相談を待っていても、その機会はほとんど訪れない。保育士から能動的に行動する必要があるのだ。天野さんは「保育と性の多様性は今までつながっていなかった」と話す。

 

保育の現場で性の多様性の必要性が議論になったのは、2年ほど前だった。滋賀県大津市で、性別に違和感のある園児が通っていた保育園で園児にからかわれて登園できなくなった問題が明らかになった。

 

園児は戸籍上が男性で性自認は女性だったため、女児向けの服装をして園にかよっていたところ、他の園児から「オトコオンナ」、「うそつき」などとからかわれた。持ち物を壊される被害にもあったという。

 

天野さんは、この問題が「保育とジェンダーをつなげるきっかけになった」と指摘した。そして、問題を解決するには、園児に性の多様性を伝えるだけではなく、保育士ら園の関係者や保護者の認識を変える必要性を説いた。

保育士研究会「にじいろ保育の会」の発起人でもある天野さん

■専門家が提言 「保育士が園児の性別を決める言動は直すべき」

例えば、「男の子は青、女の子はピンク」といった色分け、「ひなまつりは女の子の行事」というような性別の区別を改める。保育士が身に付けるエプロンを男女で区別しないことなどを挙げる。天野さんは、こう話す。

 

「保育士が園児の性別を決めるような言動は直していくべきだと思います。また、園児に性の多様性を訴えても、大人たちが体現していなければダブルスタンダードになってしまい、園児には響きません」

 

天野さんは性別に違和感のある園児が悩みを抱えないようにするには、保育士や保護者を含む全体での意識改革や共有が必要になると考えている。「LGBTQの園児だけに焦点を当てるのではなく、全体を見渡すことが大切。社会をつくっているのは大人なので、まずは大人が理解を深めるべきだと思います」。保育施設と性の多様性は決して無関係ではない。この時期の子どもたちに大人が与える影響は小さくない。

 

(間 淳/Jun Aida

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