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2023/08/09

園児に対する保育士の暴言や暴力を防ぐには? 保育現場の不満は給料や休日よりも…

園児への暴言や暴力、人材不足など課題が多い保育の現場

■元保育士のカウンセラー強調 保育の現場に必要な自己分析

保育のスキルは人間力――。昨年12月に裾野市の保育園で園児に対する虐待事件が発生するなど、幼い子どもの被害は後を絶たない。静岡市でカウンセラーをしている元保育士は、心理学の知識や研修が保育の現場に必要だと訴える。保育士が自己分析したり、感情をコントロールする術を学んだりする機会が保育の質を向上させるという。

 

静岡市で女性向けのカウンセリングルーム「サロン・ド・マコモ」を運営する松田佳美さんは今年3月まで約17年間、保育士をしていた。そのうち、半分くらいの期間は管理職を務めていたという。保育士と言っても一括りにはできず、保育士によってスキルの違いが大きいと感じていた。

 

「保育のスキルは人間力と言えます。人間性を磨くことが保育のスキルアップにつながると考えています」

 

松田さんは保育士の知識や技術を向上させる方法として、心理学の研修を園に提案した。ただ、必要性が伝わらないことに加えて、研修に興味を持っていても園の財政にゆとりがない面もあり、実現は難しかった。

 

松田さんは「自分はどんなタイプなのか」、「どんな時にイライラするのか」などを心理学による自己分析で知れば、感情のコントロールにつながると指摘する。例えば、園児がコップに入ったお茶をこぼした時、大半の保育士は落ち着けば園児の成長を実感するという。コップを持つのは手首を動かせるようになった証であり、液体がこぼれる様子に感情が動いているケースもある。別のコップにものを移す発達の段階でもある。

サロン・ド・マコモの松田さんは元保育士のカウンセラー

■感情コントロールできないタイプは2つ 特に危険なのは…

ただ、感情のコントロールができないと、お茶をこぼした行為を許せず怒りが沸き上がる。松田さんは「園児が成長していると頭では分かっているはずなのに、怒りの感情が先に出てしまう人もいます」と説明する。心理学を活用して自分を分析し、感情をコントロールする方法を知っていれば、園児を怒る行為を避けられる。

 

保育士が抱く園児への怒りやストレスは時に、事件へと発展する。静岡県でも昨年12月、裾野市の保育園で3人の保育士が園児に虐待する事件が発覚した。松田さんは「あってはいけない事件なのは大前提」とした上で、「感情を抑えられない保育士は一定数います」と明かす。

 

蓄積した怒りや不満が暴力に変わる傾向のあるタイプは主に2つあるという。1つ目は何でもやってあげる一見、優しいタイプ。松田さんは「感謝されて承認欲求を満たしたり、弱者である小さな子どもの力になって満足したりします。ただ、思うような反応を得られないと、自分の善意が相手に伝わっていないことに強いストレスを感じます」と解説する。

 

もう1つのタイプは、自分が優位に立って相手に言うことを聞かせようとするタイプ。自分の思い通りに子どもが動くと満足するという。当然ながら、成長過程の子どもは、できないことも多い。また、嫌なことに対して素直に感情を表現する。松田さんは「特に2つ目のタイプは行き過ぎると手を出してしまう傾向にあります」と話した。

 

心理学の活用以外にも、松田さんが保育現場の課題改善につながる取り組みに挙げるのが「配置基準」だ。認可保育園では園児の年齢と人数に応じて、園に配置する保育士の人数が国によって定められている。例えば、0歳児は園児3人に対して保育士1人、1~2歳児は園児6人に対して保育士1人となっている。この配置基準を満たさなければ、保育園の運営は認められない。

 

■「大幅に見直すべき」 保育現場の不満は給料や休日よりも配置基準

育児の経験があれば想像できるが、同時に0歳児3人の安全を確保しながら世話するのはかなり難しい。しかも、0歳児といっても首がすわっていない赤ちゃんから、1人歩きする赤ちゃんまで成長の幅がある。松田さんは「保育の配置基準は大幅に見直すべきです」と力を込める。

 

「0歳児3人に対して保育士1人は現実的ではない数字です。保育の質を保ち、安全性を確保するための配置基準ですが、例えば災害時に0歳児を3人抱えて安全に急いで移動するのは不可能です。保育園は生後57日から預けられます。私は実際に生後57日の子どもを預かった経験がありますが、首がすわっていない赤ちゃんと他の赤ちゃんを一緒には抱きかかえるのは難しいです」

 

こうした事態に対応するため、3人の園児を一緒に背負うおんぶ紐が発売されている。ただ、園児を乗せるのは保育士が2人がかりとなり、人手が足りていない保育園では活用は現実的ではない。松田さんは「配置基準が見直されれば保育士の負担が軽減され、保育の質が今より高くなります。今は安全確保だけで精一杯です。少なくとも、0歳児2人に対して保育士1人にする必要があります」と語る。

 

時間や心にゆとりが生まれれば、保育士はより良い保育の在り方を考えられる。また、配置基準の見直しは、保育士の確保にもつながると松田さんは考えている。

 

「給料や休日の問題よりも、配置基準に不満を持っている現役の保育士は多いです。配置基準が原因で保育士を辞めた人もいるので、1人当たりの保育士が担当する園児の数が減れば、もう一度、保育の現場に戻ろうと考える人はいると思います」

 

待機児童の問題を解消しようと、国や自治体は積極的に動いている。5年、10年前と比べて子どもを保育園に預けやすい環境になったと言える。一方で、子どもを受け入れる保育園や保育士の環境は改善されているとは言い難い。負担が大きくなるばかりでは保育の質の向上はもちろん、人数の確保さえ厳しくなる。その影響を受けるのは幼い子どもだという事実を忘れてはならない。

 

(間 淳/Jun Aida

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