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2022/08/25

離婚で知った働く難しさや偏見 シングルマザーのための会社を立ち上げた女性起業家

シングルマザーによる仕事代行事業を展開する石さん

■静岡市の「Vario’s合同会社」石光さん 4年前に20万円で起業

離婚して初めて、シングルマザーが働く難しさを知った。それぞれが歩んできた人生をたどる特集「My Life」。第3回は、静岡県静岡市でシングルマザーによる仕事代行事業を展開する「Vario’s合同会社」の代表・石光(せき・ひかり)さん。子どもたちと離れずに在宅でできる仕事を紹介すると同時に、シングルマザーに対する社会の見方を変えようとしている。

 

社会への不満や怒りが募る。だが、シングルマザーの環境を嘆くよりも、石さんは行動を起こした。

 

「自分がシングルマザーになって、いかに働くのが難しいのか痛感しました。それなら、シングルマザーのための会社をつくろうと思いました」

 

当時、手元にあったのは20万円。2人の娘を育てるシングルマザー。それでも、石さんは「何とかなる。何とかする」と覚悟して4年前に起業した。

 

■中学1年の時に中国から来日 高校卒業後にホテルや保険の営業経験

母親の母国・中国で生まれ育った石さんは、中学1年生の時に焼津市に移住した。日本語は全く分からない。だが、クラスメートから覚えたばかりの中国語で話しかけられるなど歓迎され、すぐに打ち解けた。日本の生活に早く慣れるため、中学生のうちに日本語を聞いたり話したりするのは不自由しない域にまで達した。

 

静岡県内の公立高校を卒業後、携帯ショップやホテル勤務を経て、保険会社の営業に転職した。これまでの仕事で接客には慣れていた。人と接するのも好きだった。だが、営業は勝手が違った。「保険」という言葉を口にするだけで度々、門前払いされた。

 

「最初は耐えられませんでした。契約も取れず、毎日辞めたいと思っていました。ここで逃げたら負け。自分に負けたくない一心でした」

 

今でも、はっきりと覚えている記憶がある。入社後すぐは、社員が昼休みのタイミングに規模の大きな企業を回って、営業する役割がある。商品の説明どころか、挨拶しても無視される日々。企業の駐車場に車を停めて、社員がいるフロアに向かう階段を見ると足が止まってしまう。

 

「行きたくないと思うと、足が向かないんです。だから、何も考えずに、まずはフロアに向かいました。悩む前に階段を上ることを繰り返していました。営業に行かなくても会社にはバレません。でも、通い続けることで自分が成長すると信じていました」

石さんはシングルマザーになって働く難しさを実感

■保険会社1年目でリーダーに抜擢 育児との両立に苦労

負けず嫌いな性格と勤勉さ。さらに、顧客の立場になって必要な保険を勧める方法で、石さんは営業のコツを掴んでいった。そして、店舗やエリアでトップクラスの成績を上げ、入社1年目で営業のメンバーをまとめるリーダーに抜擢された。

 

リーダーになった石さんは「自分が結果を残さないと、周りはついてきません」と数字に一層こだわった。夜遅くまで働き、土日に仕事をするのも珍しくなかった。当時、2人の娘は、ともに園児。仕事で成果を上げるためには仕方ないと思いながらも、子どもと一緒に過ごす時間が確保できず、申し訳なさでいっぱいだった。保育園が閉まっている時間は、営業先に子どもを連れて行き、車で待たせておくこともあった。

 

保険は契約が取れれば報酬に反映される実力の世界。石さんは給料に不満はなかった。だが、近所に親や親戚もいない2児のシングルマザーには過酷だった。子どもと過ごす時間を増やすため、上司に「リーダーを下ろしてほしい」と申し出た。上司の答えは「ノー」。「リーダーを下りたら、誰が数字を上げるのか」と言われ、石さんは退社を決めた。

 

■「シングルマザーに優しくない社会」を痛感 起業を決意

次に就いたのは、興味があった美容関係の仕事だった。ここで、石さんは保険会社とは別の問題に直面する。店舗に出勤する勤務形態だったため、子どもの急な体調不良などで仕事を休みたくても、代わりがいないと休みを取れない。「世の中は何てシングルマザーに優しくないのかと感じました」。石さんは周囲の勧めもあって、起業を決めた。

 

「私と同じ悩みを持つシングルマザーは、たくさんいると感じていました。ひたすら昼間に働いて、お金が足りないから夜も働きに出る人は少なくありません。そんな悲しいことはない。せめて、夜は子どもと過ごしてほしいと思っています。夜は家でパソコンやスマホを使って、数万円稼げる仕組みをつくりたいと考えていました」

 

石さんの会社は、シングルマザーによる仕事代行「mamayoro(ままよろ)」を事業の柱にしている。動画の編集やSNSの投稿などを企業に代わって行う。仕事を代行するシングルマザーは、石さんの会社が独自で作り上げたカリキュラムを動画で学ぶ。基準を満たすと、石さんの会社の仕事を任される。その仕事で合格点を得て初めて、他社から委託された仕事を担当する。累計2000人以上が仕事を希望して登録し、7月は100人がカリキュラムを受けている。

 

■シングルマザーに対する負のイメージを変える仕組み構築

委託された業務を分業して、それぞれを複数のシングルマザーが担当しているのも特徴だ。例えば、インスタグラムの投稿を代行する仕事では、文章を考える業務、動画をつくる業務、投稿する業務などを分けている。それぞれの業務に2人以上の担当者がいるため、もし1人が休んだとしても支障はない。石さんは言う。

 

「シングルマザーに対して、社会や企業は悪いイメージを持っています。すぐに辞めてしまう、休んで仕事に穴を開けてしまうといったものです。うちの会社は、そうならない仕組みを作っています」

 

石さんは「mamayoro」を通じて、シングルマザーに対する社会の見方も変えようとしている。仕事の代行を依頼してくる企業の中には、シングルマザーを下に見るケースがあるという。石さんは「ママたちには時給1000円以上になるようにしています。登録したママたちの仕事の質には自信があるので、仕事の単価は落としません。安さを求めるのであれば、他の会社に委託してください、私たちも企業を選びますと伝えています」と力を込める。

 

資金20万円で起業してから4年目を迎えた。スタッフをはじめとする周囲の人たちに支えられ、石さんは「イメージ以上に上手く進んでいます」と手応えを口にする。ただ、現状に満足はしていない。明確なビジョンがあるからだ。

 

「最終的には、シングルマザーに働く場所、住む場所、子どもを預けられる場所を揃えることを目指しています。サポートしてくれる人が周りにいない、夫のDVに苦しんでいても生活できないから離婚できないというママは全国にいます。ここに来たら、安心して生活できる環境をつくりたいです。あきらめない限り、実現できると信じています」

 

(間 淳/Jun Aida

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