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2022/11/03

「一見かっこいいけど孤独」 若手女性経営者がシングルマザーに起業を勧めないワケ

■2児のシングルマザーだった3年前に起業 Vario’s合同会社・石光代表

 シングルマザーで起業してから4年目を迎えた現状に「イメージ以上」と満足感を抱いている。だが、静岡市にある「Vario’s合同会社」の代表・石光(せき・ひかり)さんは、シングルマザーから起業の相談を受けると反対する。よほどの覚悟か、周囲の十分なサポートがなければ、子どもに深い傷を負わせる可能性があると訴える。

 

 静岡市にある「Vario’s合同会社」の代表・石さんは2019年、30代半ばで会社を立ち上げた。当時、1人で育てていた2人の娘はともに小学生だった。

 

 石さんが起業した理由は、自身と同じように仕事をする難しさに直面しているシングルマザーに働きやすいワークスタイルを提供するためだった。起業前は保険会社や化粧品関連会社に勤務していたが、近くに両親や親戚がいないシングルマザーにとっては、どちらも働きやすい環境とは言えなかった。

 

保険会社では夜や土日勤務は当り前で子どもと過ごす時間が取れない。化粧品関連会社では子どもの急な発熱などで欠勤できなかった。

 

 希望する働き方をする会社を見つけるのが難しいなら、自分で会社をつくればいい。石さんは手元に20万円しかない中で起業を決めた。現在、事業の中核を担うシングルマザーの仕事代行は順調に売上を伸ばしている。仕事を求めるシングルマザーの登録者は2000人を超え、需要の高さも実感している。

2019年に「Vario’s合同会社」を立ち上げた石さん

■「社長は孤独」 起業には犠牲と強い覚悟が必要

経営者は自分の時間を調整できることに加え、スタッフの協力も得て育児と仕事を両立。起業してからの生活に満足している。だが、石さんは起業を勧めていない。

 

「社長と呼ばれるのは、一見かっこ良いかもしれません。でも、実際は孤独です。仮に売上が立たない、資金繰りが厳しい状況に陥っても、自分1人でどうにかしないといけません」

 

 石さんの元には、起業を考えているシングルマザーが相談に訪れる。その時、必ず伝えていることがあるという。

 

「まだ子どもが小さいシングルマザーには、今は起業しない方が良いと伝えます。母親を必要とする時期に、子どもと過ごす時間を犠牲にせざるを得ないからです。何かを犠牲にする、よほど強い覚悟がなければ無理です」

 

■「世の中は起業支援をうたっているが簡単には勧められない」

 実際、石さんは会社を立ち上げて2年間は、子どもたちと過ごす時間を削った。日中は仕事を取るために営業に回り、夜は人脈を広げるために様々な交流会に参加していた。2人の娘は小学生で自立心が強く、スタッフのサポートもあったため、育児に大きな支障なく、仕事に集中できた。

 

「何かを犠牲にしないと、頑張らないといけない時に結果を出せません。私は会社をつくってからの大変さをバネにできるタイプと自分で分かっていたので、精神的に追い込まれることはありませんでした。苦労や不安にめげない心や、死に物狂いで頑張る覚悟が必要です。世の中が起業支援をうたっていますが、簡単には勧められません」

 

 石さんはシングルマザーの起業自体に反対しているわけではない。大切なのは「今が決断すべき時期なのか」。子育てが落ち着いてからでも挑戦できる。

 

石さんは「何かを始めるのに遅いことはありませんし、何事にも優先順位があります。母親を必要としている子どもの希望に応えられず、取り返しがつかないことにはなってほしくないんです」と力を込める。

 

 経営者は孤独。何かを犠牲にする覚悟。起業の大変さも、シングルマザーの苦悩も知る石さんの言葉には重みがある。

 

(間 淳/Jun Aida)

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