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2023/06/12

“日本初”のトイレットペーパー製造 ミシン目のない業務用シングルにこだわる理由

新橋製紙が初めて製造したトイレットペーパー(新橋製紙提供)

■富士市の新橋製紙 1949年に今の規格の試作に成功

「紙のまち」として知られている静岡県富士市には、日本で初めて今の規格のトイレットペーパーをつくった会社「新橋製紙」がある。新橋製紙が生産するのは業務用のシングルに限られ、商品にはミシン目が入っていない。量産型のダブルが一般的になる中、業務用シングルを追求するぶれない信念がある。

 

富士市にある新橋製紙は創業から約1年経った1949年の春、日本で初めてロール式トイレットペーパーの試作に成功した。当時、水洗トイレがなかった日本には、水に溶ける紙は必要なかった。しかし、在日米軍の基地が水洗トイレだった。

 

当初は米国からコンテナでトイレットペーパーが運ばれきたが、日本で生産すれば手間が省ける。そこで、新橋製紙が前身の材木店から転換し、トイレットペーパーの開発に乗り出した。米国のホルダーに入るサイズで製造し、その規格が後にJIS(日本産業規格)の基本サイズとなった。

 

最初につくったトイレットペーパーは米国のものを参考にしたため、ミシン目が入っている。ミシン目で破れる500カット分を1ロールに巻いていたという。ところが、新橋製紙が現在製造しているトイレットペーパーにはミシン目が入っていない。佐竹義史常務が説明する。

新橋製紙の佐竹義史常務

■100%古紙でミシン目不要 利益よりも安全性重視した商品

「正確な理由は分かりませんが、紙の原料にパルプを使うと繊維が長いので、ミシン目を入れてちぎっていたのかもしれません。今、弊社でつくっている商品は100%古紙が原料なので、ミシン目を入れる必要はありません。それぞれの人が好きなところで切って使うのが一番良いと思っています」

 

ミシン目がないトイレットペーパーは新橋製紙の特徴だが、今つくっているのは業務用のシングルに限定している。スーパーや薬局などには並ばず、病院や介護施設、ホテルなどで使われている。

 

トイレットペーパーにはシングルとダブル、2つのタイプがある。ネーミングから、ダブルはシングルの紙を2枚重ねていると思われがちだが、そうではない。ダブルの紙1枚は、シングルよりも圧倒的に薄い。1ロールの重さはダブルの方がシングルより軽くなっている。そして、紙が薄いダブルの方が早く消費するため、メーカーにとってはダブルを量産した方がもうけは大きくなる。なぜ、新橋製紙はシングルにこだわるのか。佐竹さんは、こう話す。

 

「確かに厚みのあるシングルをつくるには機械の回転数を落とすので加工効率が悪くなり、利益が少なくなる面はあります。しかし、私たちの商品は皮膚の弱い方でも安心して使えること、交換の回数を少なく長持ちすることを追求しています」

 

■化学物質過敏症の人も安心 化学薬品の使用を最小限に

化学物質過敏症の症状がある人でも安心して使えるよう、新橋製紙の商品は漂白剤や紙力増強剤などを使っていない。可能な限り化学薬品の使用を減らし、この実現を目指している。

 

日本に洋式便座が一気に普及した頃、業務用トイレットペーパーをつくっていた製紙メーカーの多くは、量産型のダブル製造へ舵を切った。しかし、新橋製紙は業務用シングル一本にこだわった。経営が厳しくなった時期はあったものの、結果的には顧客からの揺るがぬ信頼を手にした。

 

日本初のトイレットペーパーを製造して70年余り。安心安全に使える商品を販売する老舗メーカーとして確固たる地位を築いている。

 

(間 淳/Jun Aida

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