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2023/01/28

一見同じでも実は時代で変化 静岡県の老舗和菓子店が定番商品の改良をやめないワケ

富士市に本社を置く和菓子店「田子の月」

■富士市に本社「田子の月」 時代で変わる味の好みに対応

変わっていないようで改良を重ねている。NHK大河ドラマ「どうする家康」とのコラボ商品「天下泰平御蔭餅」の発売が話題になっている「田子の月」。新商品の開発に力を入れている老舗和菓子店は、定番商品も改良を重ねている。見た目は同じように見える商品でも時代や季節によって作業工程を変更。その根底には「人の好みは変化する」という考え方がある。

 

1952年に静岡県富士市で創業した和菓子店「田子の月」は、「たのしみやき」と名付けた今川焼の販売からスタートした。現在は洋菓子も販売しているが、和菓子の命とも言える「あんこ」が店の顔となっている。

 

田子の月では北海道・十勝産の小豆を使っている。しかも、品種は日本を代表する「えりも」。こだわりの小豆を富士山の湧き水で炊く。ただ、砂糖の量や質は「日々とはいかないまでも、改良を重ねている」という。その理由を商品開発室の部長を務める尾鷲和文さんが説明する。

 

「人の好みは変化します。あんこを元々はすごく甘くしていたのは、甘さに幸せを感じる時代だったからです。だんだん甘さを抑えていて、10年、20年前と今では、あんこは全然違います」

 

小豆も昔に比べて香りが抑えられているため、あんこを作る時に風味の出し方を工夫している。灰汁(あく)を抜く時の水の量や火加減、作業時間を調整。今、求められている味を常に追求している。

中に餅が入っている定番商品「田子の月もなか」

■「変えたらいけないもの」と「変えなければいけないもの」

看板商品の1つ「もなか」は、あんこだけではなく皮も改良している。あんこは時代の変化に合わせて甘さを控えめにしているが、砂糖の量を減らせば解決するほど単純ではない。もなかは一定量の砂糖が入っていないと、皮がぐちゃぐちゃになってしまう。使用する砂糖の種類や、水や水あめとの配合で味も食感もが変わる。

 

中に餅が入っている「田子の月もなか」は、気温によって餅の硬さが変化する。夏になると餅が柔らかくならないように締め、逆に冬は餅を緩めて味が落ちないようにしている。

 

商品を構成する「あんこ」、「もなか」、「餅」は不変でも、改良を怠らないことで愛され続ける定番を守り続けている。総務部長の望月洋平さんは、従業員の思いを代弁する。

 

「お菓子に限らず、変えたらいけないものはあります。私たちの会社であれば、おいしい商品を目指す信念は、その1つです。ただ、30年前においしいと言われていたものを販売し続けるのは、必ずしも正しいと考えていません。時代によって変わっていくおいしさの価値観に合わせていくべきだと思っています」

 

いつも食べている馴染みの味は、実は進化している。定番商品であり続けるには、たゆまぬ変化と探究心が不可欠なのだ。

 

(間 淳/Jun Aida

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