夫の仕事の都合で赤間さんはインドで生活（本人提供）

■元アナウンサー赤間優美子さん　語学学校のトイレの前で…

相手が不愛想と感じたら、自分の表情や行動に問題があるのかもしれない。静岡県のテレビ局でアナウンサーをしていた赤間優美子さんのコラム、今回のテーマは人生の財産となったインドでの出会い。年齢が2倍ほど離れた、ジャンという名のフランス人男性から、赤間さんは相手に対する言動は自分に返ってくると学んだ。

インドでは英語の語学学校に通っていた期間がありました。世界各国から短期・長期の留学や仕事など、色んな目的でインドに来た人たちが英語を学んでいました。

この語学学校で、人生の財産となる出会いがありました。同じクラスで授業を受けていたフランス人のジャンという男性です。年齢は60代くらいで、仕事をリタイアして世界を旅しながら英語を学んでいます。

最初に会話したのは、学校のトイレの前でした。私がトイレに入ろうとドアをガタガタ開けようとしていたら、「中に人が入っているよ」とジャンに笑顔で話しかけられました。日本のトイレのように使用中の時はカギの部分が赤くなるような目印はなく、ドアが開かなかったら人が入っていると判断するしかなかったんです。

インドの語学学校での白板（本人提供）

■日本の書籍を愛読　本の内容を体現した前向きな生き方

私は人見知りなのでビクビクしながら語学学校に通い始めたのですが、いつもジャンが話しかけてくれました。彼がいなかったら、すぐに通学をやめてしまったかもしれません。すごく心強い存在でした。

明るくて親切なジャンは、誰からも慕われていました。インドに知り合いのいない私を気遣って、インドの街を散策したり、ボルダリングをしたり、放課後に誘ってくれました。語学学校最後の出席日は、授業の後に素敵なレストランでランチをごちそうしてもらいました。

ジャンは日本の書籍「水は答えを知っている」が大好きだと話していました。水は人の心を映す鏡で、愛情や感謝といったポジティブな言葉をかけた水は美しい結晶になるという内容です。海外で有名な本なんだそうです。まさに、彼の生き方は本の内容を体現していると感じました。

インドの街を歩いていると、「オートリキシャ」という三輪タクシーに乗らないかと声をかけられます。私は普段、無愛想ながら執拗な呼び込みとその圧に苦手意識があり、オートリキシャのドライバーとあまり目を合わせないようにしていました。

ところが、ジャンはドライバーに声をかけられると、相手の目を見て両手を合わせながら「大丈夫！ありがとう」と断ります。必ず「サンキュー、サー」と「サー」を付けて、相手に敬意を表します。

休日に観光したタージ・マハル（本人提供）

■「インド人は無愛想」は誤解　自分の行動を反省

ジャンの言葉に、ドライバーは「オーケー、ブラザー」と満面の笑みで去っていきます。そんな光景をインドで見たことがなかったので、私はすごく驚きました。そして、自分自身の振る舞いを反省しました。言葉のかけ方で、相手の表情は全く変わると痛感しました。

私が感じていた「インド人は不愛想」という印象は、私自身がインド人に対して不愛想だったからかもしれません。相手に対する自分の言動は、自分に返ってくる。ジャンから大切なことを学びました。

私は日本に帰国し、ジャンも今はインドを離れています。今も連絡は取っていて、自分の船でカリブ海の島やヨーロッパを旅しています。連絡が来るのがうれしくて、次に再開した時のために私は日本に戻ってからも英語の勉強を続けています。

「水は答えを知っている」を読んだ人の中には、「本の内容は嘘」と言っている人もいます。水にどんな言葉をかけても、結晶は変わらないのかもしれません。

でも、真実だと信じているジャンは「誰が見てもいい人」というオーラを放っています。実際に周りの人を笑顔にしています。私もジャンのように、周りの人にポジティブな声をかけられる生き方ができたらいいなと思っています。

＜プロフィール＞

赤間優美子（あかま・ゆみこ）。神戸市出身。2014年に静岡朝日テレビにアナウンサーとして入社、夕方の情報ワイド「とびっきり！しずおか」で気象コーナーを担当。その後は4年間「県内ニュース」のキャスター。事件事故の取材や中継、選挙や台風の特番のMCも務める。また、時事ネタを中心に街頭インタビューで1000人以上の声を聞き、原稿執筆やVTR制作にも従事。そのほか、朝日放送の「朝だ！生です 旅サラダ」の中継コーナー、 静岡朝日テレビ開局40周年記念特別番組「池上彰と学ぶ  なるほど！富士山7つの秘密」などに出演。