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2023/08/17

常識覆す指導法で選手はまるでアスリート カリスマ率いる少年野球チームに驚きの連続

選手を指導する静岡聖光学院中学ラグビー部顧問の石澤さん(左)

■静岡市の中学ラグビー部顧問 滋賀県の少年野球チーム監督から学び

常識に捉われない指導が選手の可能性を広げる。静岡市にある静岡聖光学院の剣道部とラグビー部の生徒が7月、少年野球のカリスマ指導者が率いる滋賀県の多賀少年野球クラブの練習を見学した。引率したラグビー部の顧問は野球のイメージを覆す指導法に驚きの連続だった。<剣道部編、ラグビー部編からの続き>

 

イメージと全く違うシーンを次々と目の当たりにした。少年野球といえば、監督やコーチの怒声がグラウンドに響き、能力の高い特定の選手にプレーが集中すると想像していた。静岡聖光学院中学のラグビー部で顧問を務める石澤宏規さんは、多賀少年野球クラブの完成度に驚くしかなかった。

 

「指導者が怒鳴ったり、考えを押し付けたりすることがありませんでした。書籍や動画で選手を楽しませる指導と見聞きしていましたが、ワイワイする楽しさを想像していました。ところが、多賀少年野球クラブの選手たちはアスリートのように、思考をめぐらせる楽しさを知っていました。小学生で、ここまで高いレベルに達しているのかとびっくりしました」


多賀少年野球クラブは全国大会の常連で、今までに日本一を3度達成している。最大の特徴は「選手の考える力」。チームを率いる辻監督は小学校低学年の児童にも座学で野球の戦術や戦略を教え、1つ1つのプレーの意味を考えるように伝えている。

 

頭で覚えた知識を体で表現するために実戦練習や練習試合を積み重ね、小学校高学年になった選手たちは自分たちでサインを出したりアイコンタクトを取ったりして試合を進める。辻監督が完成させた「ノーサイン=脳サイン野球」。小学生にして、考える楽しさを知っているのだ。

多賀少年野球クラブの練習を見学する静岡聖光学院中学の生徒たち(静岡聖光学院提供)

■「選手の可能性を消さない」 守備位置を固定しない方針

石澤さんが特に驚いたのが、どの選手も複数のポジションを守るチーム方針だった。試合形式の練習や練習試合では、選手の守備位置が目まぐるしく変わる。石澤さんは、こう振り返る。

 

「選手の可能性を消さない指導だと感じました。辻監督は全ての選手に同じようにプレーの機会をつくり、選手への声のかけ方も偏りがありませんでした。選手たちも普段から練習しているので、練習試合でも複数のポジションで当たり前のようにプレーしていました」

 

辻監督は全国への舞台につながる滋賀県大会の直前まで、選手のポジションを固定しない。最大の理由は怪我の予防。最近になって少年野球でも投手の球数制限が設けられているが、投手や捕手は肩や肘への負担が大きい。特定の選手を固定すれば、それだけ怪我のリスクが高くなる。

 

多賀少年野球クラブでは週末に遠征して練習試合を複数こなす時、守備に就いた9人全員が投手をするケースもある。そして、普段の練習からマウンドに立つ準備をしている。

 

選手が複数のポジションを守る方針は怪我の予防に加えて、選手の可能性を広げる狙いやチームワークを高める効果もある。辻監督は「選手は全てのポジションの動きを把握しているので相手の気持ちが分かります。選手間でプレーの質を高めるために話し合ったり、アドバイスしたりしています」と説明する。

 

石澤さんも、この方針のメリットを感じ「多賀少年野球クラブの選手たちは、いいプレーがあった時や動きを確認する時に声を出していました。失敗を指摘する声や無意味な声はありません。他のポジションの苦労を知っているからなのかなと感じました。チームとして全てが上手く回っていました」と話す。

今秋の県大会では優勝を目指している静岡聖光学院中学ラグビー部

■課題はすぐに修正 選手への声かけにも指導のヒント

ラグビーと野球は競技性が異なる。体格の違いがポジションに大きく影響するラグビーでは、選手が複数のポジションを練習するのは難しいかもしれない。ただ、石澤さんは「中学1年生から複数ポジションに取り組んでいけば、3年生になった時に機能するのではないかと思っています。選手の可能性を大事にしたいと考えています」と話す。

 

ラグビー部では現在、選手の希望に合わせたポジションで練習している。しかし、特定のポジションに選手が集中すると誰かが別のポジションに移り、そのまま固定するケースが少なくないという。選手全員が複数のポジションを経験すれば、指導者は適性を見極める材料となり、選手は予想外の楽しみを感じるきっかけになる可能性がある。

 

石澤さんは辻監督の声かけにも指導のヒントを見出した。辻監督は実戦練習や練習試合で課題が見つかると、すぐに選手間で話し合う時間をつくる。ただ、答えを与えるのではなく、問題を解決する場をつくったり、ヒントを示したりするだけだった。

 

静岡聖光学院ラグビー部でも、週末の試合の反省点を週明けの練習メニューに反映させているが、石澤さんは「辻監督は選手が悔しいと思っているその場で修正する声掛けをしていました。選手たちは、その後のプレーですぐに変容が見られました。課題を修正するには、選手が悔しいと感じた直後の声かけが大切だと感じました」と語る。

 

その他にも、辻監督の指導は少年野球のイメージを覆すものばかりだった。ユニホームではなくTシャツ姿。怒鳴り声を上げず、時に選手を笑わせる接し方。遊びの要素を盛り込んだ練習メニューの工夫。少年野球と中学のラグビー部では違いがあっても、選手の可能性を広げる指導には必ず共通する部分がある。

 

(間 淳/Jun Aida

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