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2023/08/06

海外での挫折を経てJ3からJ1へ“成り上がり” 現役プロのサッカー教室 キックに特化するワケ

鈴木選手はキックにこだわったサッカースクールを開講(写真はイメージ)

■沼津市出身の鈴木準弥選手 キックスクール開講

技術以上に伝えたいことがある。静岡県沼津市出身でサッカーJ2・FC町田ゼルビアに所属するDF鈴木準弥選手は、キックに特化したサッカースクールを開催している。キックスクールでは座学がセット。自身が得意にするキックの指導を通じて、武器を持つ重要性や自分を表現する大切さを届けている。

 

漢字で「蹴球」と書くように、言うまでもなくサッカーは足を使うスポーツ。7月にFC東京からFC町田ゼルビアに移籍した鈴木選手は、その蹴る技術を武器にしている。長所を伸ばし、表現する大切さを痛感したのはプロになってからだった。

 

「プロの世界に入って今までの実績が関係なくなった時、自信を失いました」

 

鈴木選手は、将来有望な選手を集めてトレーニングする「トレセン」に小学生の頃から選ばれていた。高校時代は清水エスパルスユースに所属し、年代別の日本代表に召集された。4年生の時にキャプテンを務めた早稲田大学では、2年生から全日本大学選抜に選出された。アマチュアではエリート街道を歩んできた。

挫折を経験してJ1でプレーする選手にまで上り詰めた鈴木選手

■アマの実績が無意味なプロの世界 挫折から出した答えは…

しかし、プロの壁は厚かった。大学卒業後に渡ったドイツのVfRアーレンでは挫折を経験して1年で帰国。加入したのは、当時J3の藤枝MYFCだった。

 

「大学までは各年代で日本代表に選ばれ、周りからも年代でトップレベルの選手と評価されて自信を持っていました。でも、プロではアマチュアの実績は何の武器にもなりません。海外でプレーすれば、なおさらです」

 

こんなはずではない――。大学選抜でプレーしていた頃は、海外のチームにもJ3のチームにも互角以上の戦いができている手応えがあった。ところが、1人の選手としてVfRアーレンや藤枝MYFCに入ると、全く自分の存在感を示せなかったという。

 

なぜ、上手くいかないのか。鈴木選手は練習から周囲を観察し、自分と主力選手の差を考えた。そして、1つの答えを導き出した。

 

「ドイツに行って、もっと自分を表現しなければといけないと感じました。自分の特徴をチームメートに知ってもらう意識が欠けていたと気付き、藤枝MYFCでは普段の練習からキックが特徴の選手だとプレーで示しました。自分がサイドで良いトラップをしたら、必ず精度の高いクロスが上がるとチームメートと信頼関係を築くことで自信がついていきました」

 

■長所のキック磨いて存在感発揮 J3からJ1の選手に

長所を磨き、自分を表現する重要性はJ2、J1とカテゴリーが上がるほど増していった。鈴木選手は「プロは個性の強い選手の集まりです。その中で、自分を表現できる選手がJ1で長く活躍できると思っています」と語る。

 

長所とするキックを表現し、J3の藤枝MYFCからJ2のブラウブリッツ秋田、さらにJ1のFC東京へと上り詰めた鈴木選手。キックスクールを始めたのは、自身の経験を若い世代へ伝えるためだった。

 

「人それぞれ、自分に合ったキックがあります。例えば、遠くにボールを蹴る時は、遠心力を利用するために体を大きく使って蹴るのが一般的です。でも、自分の場合は体の軸を使って蹴る方が理想のボールになります」

 

サッカーが上達する方法は1つではない。それは、パスでもシュートでもドリブルでも同じ。そして、弱点の克服に重点を置いて全てをまんべんなくレベルアップする以外の手段もあると、鈴木選手は示す。

 

足元の技術で比べれば、鈴木選手より長けている中学生や高校生もいるかもしれない。だが、プロで求められるのは、キックの正確さという突出した能力。鈴木選手は小学生や中学生相手のスクールでも、自分が苦手なことを隠さない。スクールでは必ず座学をセットにして、「武器を見つける大切さ」を説く。

2児の父でもある鈴木選手(公式Twitter@SJunyaaより)

■「蹴れる選手少ない」 若い世代に広がるキックへの誤解

キックスクールの回数を重ねる中で、気になっていることがある。「ボールを蹴れる選手が少ないですね。そもそも、キックを学ぼうとする選手が少ないと感じます」。普段の練習がドリブルや短いパスを磨くスキルに偏っている選手やチームは多いという。そこには、ある誤解があると指摘する。

 

「バルセロナのポゼッションサッカーが日本でも注目されるようになり、Jリーグで結果を残しているフロンターレも短いパスやドリブルを上手く使っています。ただ、海外のポゼッションサッカーはロングキックも多用しています。試合のハイライトで美しいシーンだけを切り取って見ている若い世代の選手や指導者が多いので、日本では狭いスペースでのショートパスを重視過ぎていると感じます」

 

テレビのスポーツニュースやYouTubeのように場面を切り取って編集した映像は、間違った印象を与える可能性がある。鈴木選手は川崎フロンターレを例に挙げ、「相手陣でのポゼッションが上手い印象が強いですが、相手陣に入るまではロングキックを使っています。キーパーからつなげるケースもありますが、FWが競ってこぼれたボールを拾ったところからポゼッションに入る形が基本です」と語る。

 

自分の武器は何なのか。自分を知り、相手に知ってもらうことが上のカテゴリーに行くほど重要になる。

 

(間 淳/Jun Aida

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