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2024/03/23

人間がクマに襲われる被害増加 専門家「ベストな道はない」 背景に時代の変化

今年度は全国的に増加したクマによる被害

■クマによる怪我 統計開始から初の200人超

今年度、クマ出没のニュースは度々、報道された。全国で怪我をした人の数は1月末時点で218人に上り、統計を開始してから初めて200人を超えた。爬虫類専門家で河津町にある体感型動物園「iZoo」の白輪剛史園長はクマと人間、どちらにとってもベストな道はないと指摘する。

 

前回の連載で冬眠について書きました。暖冬が生物の冬眠にも影響を及ぼしていること、クマの冬眠は爬虫類や両生類とは違うことを説明しました。

 

冬眠の時期にクマが出没し、人間に怪我をさせるニュースは今年度、特に多く目にします。冬眠中と言ってもクマは代謝を落としながら活動します。休眠する時にエサを蓄えていますが、お腹が空いた時や外が暖かい時はエサを求めて動きます。

 

実は、この冬に目撃されているクマは大半が子グマです。クマは2歳くらいまで親子で暮らします。昨秋に撃たれた中には母親のクマもいます。子グマは母親がいないと休眠の仕方が分からないので、フラフラと人間がいるところまで出てきてしまいます。報道する側はクマの大きさにかかわらず「クマが出ました!」と恐怖心をあおりますが、クマは山に住んでいるので、その周辺に出没するのは当たり前です。

 

■クマと人間の「緩衝地帯」激減 共存が難しい環境に

かつては、クマが暮らす山と人間が住むエリアの間に里や田んぼといった緩衝地帯がありました。緩衝地帯に人間がいると、クマは怖がって近づきませんでした。しかし、今は里や田んぼが減って、山から町に直接つながっています。

 

山を整備する人材も減っているので、山は荒れています。クマは町に行けばゴミとして捨てられているおいしい食べ物があると知っています。町では人間がクマを恐れて逃げていくので、クマには都合が良いわけです。

 

日本は山の方までインフラ整備が進み、人間が住める地域が広がっています。野生動物が暮らす場所は、どんどん減っています。緩衝地帯を戻そうとしても、行動を起こす人がいません。人間と動物が共存するために、ベストな道はないと言えます。増えすぎた動物を捕獲して個体管理していくベターな方法を模索していくしかありません。

 

現在、シカとイノシシは鳥獣管理で指定されている動物です。シカは数十年前、メスを捕獲してはいけないと保護されていました。ところが、爆発的に個体数が増えたことで、積極的にメスを狩る方針に転換されました。今のやり方でメスが大幅に減ってシカが希少動物となり、保護しようという流れになる可能性はゼロではありません。

クマがつけたとみられる爪痕

■生物守るために不可欠な狩猟「オオカミの時代に戻せない」

クマは今まで、捕獲しないように守られてきました。ただ、町に出てきて人間の生活を脅かす存在になれば、シカやイノシシのように捕獲の対象となる可能性も十分あります。そして、数が減ってきたら捕獲を禁止する繰り返しになるでしょう。動物の管理捕獲の制度をつくっているのは国です。都心で生活している人たちに、山や動物のことは分からないのが現実だと感じています。

 

生物がたくさんいれば幸せというわけではなく、縄張りや適正な生息数があります。その役割は元々、日本ではオオカミが担っていました。しかし、オオカミは人間の手で絶滅させました。オオカミがいた時代に戻すことはできない以上、代わりができるのは狩猟者しかいません。

 

iZooで希少種を扱い、山では狩猟をしているからこそ分かることですが、数が多すぎると生物のためにもなりません。エサの競合が激しくなれば、種として餓死する可能性が高くなります。私はワナ猟、第一種銃猟、網猟と全ての狩猟免許を持ち、実際に山で狩猟しています。

 

周囲からは「生物が好きなのに、なぜ狩猟をするのか」と言われることがありますが、これは考え方の違いです。生物を守るためには狩猟が必要で、誰かがやらなければいけません。生死に関係なく、生物に携われるのであれば積極的に取り組むのが私の考え方です。

 

<プロフィール>

白輪剛史(しらわ・つよし)。1969年生まれ、静岡市出身。静岡農業高校卒業。幼少期から爬虫類に興味を持ち、1995年に動物卸商「有限会社レップジャパン」を設立。2002年から国内最大級の爬虫類イベント「ジャパンレプタイルズショ―」を開催。2012年に体感型動物園iZooをオープンして園長に就任。

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