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2022/10/12

大型書店勤務後に静岡で本屋オープン 本の専門家が何度も読みたくなるオススメの2冊

静岡市の中心部にある「ひばりブックス」

■ひばりブックスの店主・太田原さんが20回読んだ作品「旅する練習」

本が生活の中心になっている人は、どんな作品を繰り返し読みたくなるのか。全国展開する大型書店・戸田書店に長年勤務し、現在は静岡市で「ひばりブックス」を経営する太田原由明さんが何度も読んでいるおすすめの本2冊を紹介する。どちらも、散歩が心地良い秋にぴったりの世界が描かれている。

 

太田原さんの日常には、子どもの頃から本が欠かせなかった。行動範囲が広がった中学や高校時代は近くの書店に通い、戸田書店には20年以上勤務。2020年に静岡市葵区に自身の店を構えた。多読をしていた時期もあったが、今は同じ本を繰り返し読むことが増えたという。

 

「何度も読むと、響いてくる場所が変わります。自分自身が作家と共鳴しているところが何なのか考えながら読んでいます。自分が考えたいことを同じように作家も深く考えているので、自分の中に反応が生まれます。癒しや慰めという感情ではなく、物語の世界に浸って考える時間が好きなんだと思います」

 

読書が好きな人の多くは、何度も読み返す本がある。太田原さんにも繰り返し読む本があるという。最近出版された本の中で「20回くらい読んだと思います」と話すのは、乗代雄介が2021年に発表した「旅する練習」。三島由紀夫賞を受賞した作品で、芥川賞候補にも入った。

 

「旅する練習」は、中学校入学を前にした女子と小説家の叔父がボールを蹴りながら旅をするストーリー。物語の設定は極めてシンプルだが、太田原さんは「空気感がとても良い」と評する。そして、最後の数ページで唐突に結末を迎える。繰り返し読んでいると、その時の自分の感情や考え方によって、物語の世界が違って見えるという。

太田原さんオススメの本が並ぶ店内

■数学者ならではの視点や表現 幅広い年代にオススメ「偶然の散歩」

もう1冊、太田原さんが最近読んだ本の中でオススメなのは、森田真生のエッセイ「偶然の散歩」。大学に所属しない異色の数学者が、息子たちとの日々の散歩を通じて感じたことをつづっている。太田原さんが、この本の魅力を語る。

 

「日常の些細な出来事も1度きりしかない、偶然がどれだけ貴重なのかが描かれています。数学者なので1回きり、偶然という部分にすごくこだわっていると感じます。語りかける言葉も美しく、内容も共感できるところが多いと思います。内容は難しくないので、ぜひ幅広い年代の方に読んでもらいたいです」

 

使う言葉や表現はシンプルで、数学者のイメージとはギャップがある。ただ、11つの言葉が心に響き、言葉の組み合わせも美しい。太田原さんは「作者は永遠とは何かを考えているのですが、数学者だから見える世界があると思います。僕らが普段体験するよりも、もっと深い部分を感じていて、その深さを読者に見せてくれます」と語る。

 

今回おすすめする2冊の本は、いずれも散歩を題材にしている。物語の世界に浸った後は、心地良い秋の風を感じながら外を歩きたくなる。

 

(鈴木 梨沙/Risa Suzuki

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